2012.12.23 sun

新聞1面トップ 2012年12月23日【解説】昭和の教訓、平成の未来

新聞1面トップ 2012年12月23日【解説】昭和の教訓、平成の未来


【リグミの解説】

ニッポンの今
本日の新聞1面トップは、久しぶりに5紙とも別の記事です。各紙のトップ3つの記事を比較してみます。


読売: ①「34拠点病院『津波浸水』」 ②「殺人・放火容疑、警部補逮捕」 ③「民主代表、海江田氏有力」
朝日: ①「警部補、夫婦殺し放火容疑」 ②「衆院議長に伊吹氏」 ③「民主代表選は25日」
毎日: ①「幹細胞、培養・使用を規制」 ②「公務このままで」 ③「政調会長に小池氏検討」
日経: ①「シェールガス利用、提携」 ②「所得の海外流出最大」 ③「厚労相に田村氏内定」
東京: ①「復興事業、生活止める」 ②「殺人容疑、警部補を逮捕」 ③「郡山に『川崎式サイト』」


社会の矛盾
2012年12月23日は、ニッポンの今を、どう象徴しているでしょうか。社会は矛盾と逆説に満ちています。新聞
はいつの時代も事件や社会的な問題を取り上げます。富山では、警部補が殺人・放火の容疑で逮捕されました(読売②、朝日①、東京③)。

自民党の大勝
そんな中、衆院選で大勝を果たし政権を奪還した自民党は、自信に満ち、閣僚人事を進めています。
新政権は、選挙戦で掲げた外交や憲法や教育の保守的な公約を、どんどん具体化していくのでしょうか。それとも、来年6月の参院選でも自公で3分の2以上の議席が取れるように、景気対策を中心に実務重視で臨むのでしょうか(朝日②、毎日③、日経③)。

民主党の壊滅
一方で壊滅的な敗北を喫した民主党は、混乱の中にあり、党代表選を延期しました。誰が次の代表になっても
、それは来年6月の参院選に向けた「顔」ではありません。自民党との2大政党制を維持できるか、瀬戸際での再生が問われています(読売③、朝日③)。

東日本大震災という国難
民主党政権のときに起きた最大の国難は、東日本大震災でした。民主党以外の政権であったなら、その対応は
どう違っていたのでしょうか。自民党は、東日本大震災からの復興について、「東北をバネとした『新たな経済モデル』に挑戦する」と掲げます。東日本大震災の復興は、みなが等しく望むことですが、硬直した仕組みの中、復興されるべき現地には矛盾が堆積していきます(東京①)。

大災害の時代
大震災は過去ではありません。それは現在進行形であり、さらには近未来の危機でもあります。マグニチュー
ド9クラスの南海トラフ巨大地震の可能性が現実のものとして想定され、政府と自治体は防災対策を進めています。しかしその対応は大変です。全国653の災害拠点病院のうち、189施設がこの巨大地震の影響範囲に入りますが、34病院が「津波浸水」のリスクを想定しています(毎日①)。

現在進行形の原発問題
3.11後のもうひとつの現在進行形の問題が、原発です。巨大地震による災害は、津波だけではありません。原
発事故が今度起きたら、その影響は計り知れません。しかし、原発・エネルギー政策は、国家経済の根幹と直結します。原発が停止し、火力発電に依存した結果、石油やLNGの輸入が増え、貿易を通じた所得の海外流出が過去最大の18.5兆円となりました(日経②)。

グローバル経済の中の日本
目を世界に転じれば、グローバル経済はダイナミックに動いています。原発停止は、燃料の輸入増によるコスト高と石油の
中東依存など安全保障の問題を浮上させますが、同時に、米国のシェールガスの登場で、燃料が低コスト化する可能性もあります。国内の自由競争で、サービスやテクノロジーのイノベーションも期待できます(日経①12月22日「日経新聞1面トップ記事要約」参照)。

天皇誕生日
忘れてならないのは、今日が天皇誕生日だということ(毎日②)。昭和の前半20年は、戦争の時代でした。後
半40年は平和を構築する時代となりました。そして今上天皇になり、本当の意味での象徴天皇として、国家の平和と国民の幸福を祈念する存在となりました。天皇皇后両陛下が率先して大震災の被災地に入り、膝を屈して避難民に語りかけるお姿を見て、多くの日本人が心動かされました。

皮肉なことに、敗戦後からの平和国家建設の道程で、平成の24年間は、ほぼ「失われた20年」と重なります。日本の矛盾が一気に顕在化しました。私たちは、「平和主義」による経済的繁栄という戦後最大の成果物を、どうやって次代に継承していけば良いのでしょうか。

A級戦犯7人の絞首刑
そのことを考える上で、今日は象徴的な日です。今上天皇が皇太子であった昭和23年(1948年)に、A級戦犯
の東條英機、板垣征四郎、土肥原賢二、松井石根、木村兵太郎、武藤章、広田弘毅の7人が巣鴨プリズンで絞首刑に処せられました(参照:「今日は何の日?」)。皇太子の誕生日に重ねることで、日本国民が長く戦争の記憶を刻むようにとGHQが画策した結果だとする説があります(参照:Wikipedia)。その意図は、成功したのでしょうか。巣鴨プリズンが、今の池袋サンシャインビルだと知る人は、若い世代ではほとんどいないかもしれません。

昭和の教訓
保坂正康氏の『昭和史の教訓』の冒頭にゲーテの言葉があります。

 

「歴史は、時々書き換えなければならない。
なぜならば、新しい事実が発見されたからではなく、
新しい見方
が出てくるからであり、
ある時代の進歩への参加者は、新しい行き方で過去を見、
判断出来る立場に置かれて
いるからである」
 

この衆院選で、政治の保守化が一気に鮮明になりました。「昭和史の教訓」を日本人はどう受け止め、未来を創造していくのか。12月23日は、過去の100年を振り返り、未来の100年に思いを馳せるのにふさわしい日です

(文責:梅本龍夫)
 





【記事要約】 「34拠点病院『津波浸水』」

  • 南海トラフ巨大地震が起きた場合、災害拠点病院の34施設が、「津波で浸水する恐れがある」と懸念している。津波が到達すると予測される24都府県404市区町村にある災害拠点病院189施設に、読売新聞がアンケート調査をして判明。
  • 「浸水する恐れがある」と答えた34施設のうち、21施設(62%)は、「医療機能の維持が困難」と回答。5施設(15%)が「維持できるか不明」、8施設(24%)は浸水の程度が軽微で「維持可能」と回答した。
  • 災害拠点病院は、災害の際に重症患者の救命医療を行う。全国からの災害派遣医療チームの受け入れや他病院の支援なども行う。津波被害が想定される施設の対策が急務となっている。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/





【記事要約】 「警部補、夫婦殺し放火容疑」

  • 富山県警は22日、同県警警部補の加野猛容疑者(54)を殺人と現住建造物等放火、死体損壊の疑いで逮捕したと発表。同容疑者は、容疑を認めている。
  • 加野容疑者は、2010年4月20日、富山市大泉のビル2階の住居で福田三郎さん(当時79)と妻信子さん(同75)を絞殺し、持ち込んだ灯油で放火、死体を損壊した疑いがある。
  • 県警によると、加野容疑者は福田さん夫妻と30数年来のつきあいがあった。また、消費者金融などから200万円前後の借金があり、主に遊興費に使っていたとみられる。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/





【記事要約】 「幹細胞、培養・使用を規制」

  • 厚生労働省は、患者に幹細胞を投与する医療機関について、再生医療の安全性を確保する新法で、幹細胞の「培養」と「使用」の2段階で規制する方針を固めた。
  • 現在は、幹細胞を「治療」として使用する場合、施設内の倫理委員会の承認などの手続きを求める厚労省の通達がある。しかし強制力はなく、罰則もない。
  • 厚労省再生医療研究推進室は、新法の狙いについて「事故が予防できる仕組みが必要。社会の期待が高い再生医療の実用化を推進するための規制だ」とする。再生医療に行政当局が介入を進めることに、議論が起きる可能性もある。

(毎日jp http://mainichi.jp/





【記事要約】 「シェールガス利用、提携」

  • 三菱ケミカルホールディングスは、米国のダウ・ケミカルと提携し、シェールガス(新型天然ガス)を活用した石油化学コンビナートを構築する。ダウ・ケミカルがテキサス州に建設する世界最大級の化学原料工場に、三菱ケミカルが樹脂工場を併設する。
  • 北米のシェールガスを使用してエチレンを生産すると、日本の化学工場の20分の1のコストで済むとの試算もある。三菱ケミカルは、ダウとのシェールガスの大規模利用で先手を打つ。
  • 新工場の建設費は、500億~600億円となり、生産能力は年25万トンで三菱ケミカルの現在の能力の約2割。自動車部品や液晶パネルに使う樹脂を生産する。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/





【記事要約】 「復興事業、生活止める」

  • 宮城県石巻市・牡鹿半島の漁港での復興予算の使われ方は、地元の事情とずれ、問題となっている。工事の時期や漁船の移動など、机上で考えており、漁業の実態を見ていない。年度単位の予算計上も現場ニーズとのずれの一因だ。
  • 牡鹿半島の西側にある鮎川浜漁港では、復旧工事の重機が陣取り、漁船の操業は満足にできない。「震災直後の方がまだ船を動かせたっちゃ」と漁師の成田浩幸さんは語る。
  • 牡鹿漁業協同組合の渡辺玲参事は、「行政も建設会社もがんばってくれてるよ。でも、何かちぐはぐで、力が復興に集まらない。お金の使い方が悪いのか、それとも国全体のシステムの問題なのか」と語る。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)




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