2012.10.06 sat

新聞1面トップ 2012年10月6日【解説】神話が現実になる時代

新聞1面トップ 2012年10月6日【解説】神話が現実になる時代


【リグミの解説】

iPS細胞の可能性
生命科学の研究と開発の現場が大きく進歩し、「命の再生」がリアリティーをもって語られる時代がすぐそこに来ています。


本日の日経新聞の1面トップは、「iPS細胞、効率よく作製」という記事です。再生医療の本命とされるiPS細胞(人口多能性幹細胞)は、がん化の問題があるため、良質なiPS細胞を選別し培養する必要があります。細胞を確実に選別し、効率よく増やす専用装置を作れば、品質の向上、コストの低減、時間の効率化、細胞の大量のストックといったメリットが考えられます。

京都大学iPS細胞研究所長の山中伸弥教授は、iPS細胞による難病治療や新薬開発の可能性として、「パーキンソン病、脊髄損傷、心筋梗塞、糖尿病などに対する細胞移植治療への有望な資源」と語っています(参照:nikkei.com)。iPS細胞は、研究段階から臨床の現場に応用され、さらにビジネスとして大きく拡大していく可能性も見えてきています。

iPS細胞は、一人でも多くの患者を救いたい、という医療現場の願いを実現する切り札になる可能性があります。しかし、そこに留まらない本質的な命題をも秘めています。それは、生命とは何か、というテーマです。

生命とは何か
山中教授は講演で心臓疾患への応用を例に出し、iPS細胞で培養した心臓の組織は、自己の遺伝情報を保持したまま、胎児として
母親のお腹の中にいたときの心臓に戻る、と語ります。ということは、いずれ研究開発が進めば、古くなったり、機能障害を起こした自分の臓器を、真新しい状態の「コピー臓器」と入れ替えることも可能となるでしょう。いや、全身の組織を若かったころに総入れ替えする人々も出てくるかもしれません。

昨日の朝日新聞は1面トップで、京大のチームがマウスのiPS細胞から卵子をつくることに成功した、と伝えています。同チームは昨年、マウスのiPS細胞から生殖が可能な精子もつくったとのことですので、理論上は精子ができない男子と卵子ができない女性が、皮膚細胞などをもとに自己の遺伝情報を継承する子供をつくる道が開かれたと言えます(「新聞1面トップ記事2012年10月5日」)。

iPS細胞が切り開く未来は、今までとはまったく異質なものになっていくかもしれません。人類が神話として想像してきた世界が実現するかもしれないのです。ギリシア神話の世界では、神々は永遠の命を謳歌し、好きなときに若い状態に戻ります。自分の分身をいくつもつくったり、自己の似姿である人間を創造したりします。命を自在に操るのが神の特権ともいえます。人間は、そうした神々の姿に憧れてきました。近未来の人類は、この領域に踏み込んで行くのでしょうか。

神話を生きる時代
古代メソポタミアの神話、ギルガメシュ叙事詩は、世界最古の物語と言われています。この物語の主人公のギルガメシュ王は、
大変な暴君でしたが、無二の親友を失い、命のもろさと死の恐ろしさを自覚します。そして、永遠の命を求めて旅立ちます。ギルガメシュは、苦難の末に、神の助けを得て不死の薬草を手に入れましたが、目を離したすきに蛇に盗まれてしまいます。不死を得そこなったギルガメシュは、失意の内に都に戻っていきました。一方、薬草を食べた蛇は、永遠に脱皮を繰り返す存在になりました。

人類の最初の物語で、人間が永遠の命を得そこなうという結末は、象徴的です。インドの神話では、この蛇は人間の体内に宿り、肉体のエネルギーを精神のエネルギーに変容していく存在ととらえています。永遠の若さ、永遠の命は、肉体という乗り物で決められるか、それとも精神の活動において成就していくのか。科学が高度に発展する現代は、逆説的に神話を生きる時代になっています。肉体と精神という古くて新しい二元論のテーマを、科学技術の進歩によって期せずして「永遠の肉体」を得てしまう前に、よく考察しておくのが良いかもしれません。

(文責:梅本龍夫)



讀賣新聞

【記事要約】 「生活保護10市区から1000万円」

  • 埼玉県草加市の女が、10市区から計1000万円の生活保護費を不正に受給していた。申請窓口で「家庭内暴力(DV)で逃げてきた」などと言い、親族への連絡を拒否。家具付き賃貸アパートの空き物件を自宅と偽り、ケースワーカーを案内などして信用させていた。
  • 不正受給があったのは、東京都久留米市、西東京市、国分寺市、立川市、府中市、練馬区、足立区、葛飾区、北区、埼玉県草加市で、1自治体当り12万8965円~206万8640円。
  • 足立区が家賃の領収書を提出させたところ、偽造であることが判明。女は詐欺容疑で逮捕された。生活保護が急増する中、自治体のチェックが追い付いていない実態が明らかになった。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/


朝日新聞

【記事要約】 「復興予算で官庁改修」

  • 東日本大震災の復興予算にうち約120億円が、防災名目で全国の官庁施設の改修費に回されていた。内訳は、2012年度の予算で国交省が約100億円、国税庁が約20億円。2013年度の概算要求でも、国交省が57億円、国税庁が3億円を求めている。
  • 復興予算の総額19兆円の中の「全国防災対策費」1兆円は、震災を教訓として防災を進める場合には、被災地以外でも耐震化などに使えることになっている。国交省は、「震災を教訓に、緊急に必要な施策を進めるという復興の基本方針に沿っている」とする。
  • 復興予算のうち被災地向け事業には、2011年度は約15兆円の予算がついたが、人手不足や自治体が使いにくい事業だったりして、6割ほどしか使われていない。岡田副総裁は、復興予算が被災地以外で使われている問題について、行政刷新会議で事業の妥当性を点検する方針を明らかにした。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/


毎日新聞

【記事要約】 「上関原発計画、白紙も」

  • 枝野経産相は5日、中国電力が山口県上関町に建設を計画している上関原発について、「新増設しない原則の適用対象だ」と述べ、着工を認めない考えを示した。
  • 同日に中国電力は、同原発の予定埋立地に必要な免許の3年間延長を山口県に申請し、建設に強い意欲を示した。しかし山口県は、「国のエネルギー政策がはっきりしない」として、免許の延長を認めない考えだ。
  • 免許が切れた場合、「これまで埋め立てた場所を元に戻す必要がある」(資源エネルギー庁)ため、計画の実行は非常に困難になる。原発計画が事実上、白紙に戻る可能性も出てきた。

(毎日jp http://mainichi.jp/

日経新聞

【記事要約】 「iPS細胞、効率よく作製」

  • ニコンは、iPS細胞から研究や治療に使う良質な細胞だけを自動選別する技術を開発した。研究機関や製薬会社向けの装置を1~2年以内に商品化する。
  • 病気や怪我で失った体の機能を回復させる再生医療は、京都大の山中教授が開発したiPS細胞の利用が本命視されている。しかし品質が悪いとがん化する恐れがあるため、今は人手で良質な細胞の選別と培養をしている。治療に使うと患者1人当り1000万円近くかかる。良質な細胞を確実に選別し、効率よく増やす専用装置により、コストを下げられる。
  • 島津製作所も、iPS細胞から作った治療用の細胞を効率よく培養して増やす装置を開発した。再生医療の研究を支援する機器の開発は加速しており異業種企業が参入している。ただ、iPS細胞を見据えた専用機は珍しく、実用化すればiPS細胞を使った医療の普及に弾みがつきそうだ。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/


東京新聞

【記事要約】 「世界に誇れる文楽教えよう ~ドナルド・キーンの東京下町日記」

  • 東京都北区に住むドナルド・キーンさんは、自室で静かに研究活動をしているが、伝統芸能「文楽」をめぐる大阪市の補助金削減問題が気になる。市長と文楽側の話し合いで削減はなくなったが、これで問題解決とは思えない。
  • 「文楽は日本が世界に誇れる文化だ。脚本の芸術性は高く、人形使いの美しさも世界が認めており、世界無形遺産といえる。補助金削減騒動は、観客動員の低さが一因と聞くが、それは文化的に廃れたからではなく、面白さが忘れられているだけ。原因は教育にある。」
  • 「今回の騒動で一番得をしたのは、注目を浴びた橋下さん。補助金騒動で大阪の観客動員数が40%も増えたと聞く。橋下さんは、文楽を何度も見ずに、面白くないと決めつけたそうだが、それはどうか。個人の嗜好は認めるが、独断で削減を打ち出すことに危うさも感じる。」

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)



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