2013.02.28 thu

新聞1面トップ 2013年2月28日【解説】憲法論議の大前提

新聞1面トップ 2013年2月28日【解説】憲法論議の大前提


【リグミの解説】

憲法関連記事
本日の新聞1面は、憲法に関連する記事が複数あります。1つは、「婚外子の相続権利」(読売トップ、毎日2番)に関する物です。結婚をしていない男女間で産まれた子(非嫡出子)の相続は、嫡出子の2分の1という民法の規定が、「法の下の平等」に違反するかどうかが争点です。最高裁は1995年に合憲と判断していますが、これが見直される可能性が出てきました。


憲法は、法治国家の根幹を規定するものです。民主主義による国家運営では、国民全員が合意し、従うものとして憲法を位置づけています。憲法は、法律の法律ともいうべきもので、法に従うとはどういうことかを提示するものともいえます。憲法は、国民の権利と義務を定義し、私たちのあらゆる活動の基盤を成します。憲法は同時に、国民の権利と義務という「What」が、どのような国家の理念や基本的価値観、規範に基づくのか、という「Why」を明示したものです。

最高裁判断の重要性
そうした憲法の在り方を判断する最高裁の役割は、取り分け重要です。なぜなら、憲法判断は単なる法律判断に留まらないからです。個々の争点を、国家の理念や基本的価値観、規範の観点から判断するということは、道徳観念や公序良俗の考え方にまで影響するものです。


「婚外子の相続権利」に関して言えば、男女の恋愛関係の在り方や、結婚と子供の位置づけが問われます。昔は良く聞かれた「妾(めかけ)の子」という表現には、日陰者、不道徳な存在、といった差別的なニュアンスがありました。新しい憲法判断は、そうした社会通念や価値観にも、新しい光を当てるものになると思います。また、いわゆる愛人関係とは違う意味で、いろいろな事情で結婚できない(あるいはしたくない)男女の間に生まれた子を、ひとりの人格として正当に位置づけるものになります。

憲法改正の動き
もう1つの憲法関連の記事は、読売の3番記事の「96条改正に現実味」です。これは4面に掲載された「憲法考」という連続記事の第1回の導入文になっています。読売新聞は少し前に、政治学者の北岡伸一氏による「96条改正」を支持する寄稿を載せました。また2月25日と本日の2度に渡って、「96条改正」を主張する日本維新の会の橋下徹氏のインタビュー記事を大きく掲載しています。こうした編集方針を見ると、読売新聞は「憲法改正キャンペーン」を開始したようです。


読売は、4面記事「改正『世界では当たり前』 ~憲法考 発議要件1」で、憲法改正がまったく行われていない日本の現状は、「異様、異例、異常だ」という西修・駒沢大名誉教授(比較憲法学)の発言を引用しています。例示されているのが、他国の第2次世界大戦後の憲法改正回数です。ドイツ58回、フランス27回、カナダ18回、イタリア15回、韓国9回、米国6回、デンマーク1回に対して、日本はゼロ回です。

日本における憲法改正の大前提
憲法改正が意味することを諸外国と比較し、日本の今日の政治社会の在り方に合わせて積極的に議論し、新しい方向性を探求すること自体は、良いことだと思います。憲法を不可侵の聖典のように扱い、改正の在り方をタブー視するのは健全とは言えません。しかし、ここにきてにわかに政治の舞台を賑わし、一部マスコミが追随する憲法論議には、何か根本的なものが欠落しています。


第1は、戦後の日本国憲法が規定した「平和主義」の在り方の棚卸です。第2が、鏡面対象となるテーマですが、戦前の「軍国主義」の位置づけです。この2つは、日本が責任をもって総合的に提示しなければならない「歴史認識」です。憲法の改正は、現実に合わない部分を技術的に修正するレベルのものではありません。それは、国家の理念の再定義につながるものです。真に「未来志向」の憲法改正や新憲法制定を議論するためには、「過去の清算」が不可欠です。これを無視、省略、歪曲した議論は、不健全かつ不適切と言わなければなりません。

3.11と8.15の棚卸し
もう1つ、憲法の位置づけが日本において、諸外国よりも注意深く議論すべき点があります。それは、日本人の国民性が「規範や権威に従う」傾向が強いということです。「お上に従う」というメンタリティーは、簡単には変わらない心理構造として、日本人全体に根深く存在します。憲法は、心理的には「お上」の定義集となるものです。憲法論議が真に健全で未来志向となるためには、3.11以降に芽生えた国民の「当事者意識」を、憲法の在り方にまで持ち込む必要があります。


3.11がもたらしたもの、とりわけ原発事故に対する事実関係や、責任の在り方、再発防止体制、そして原子力エネルギー政策は、未だに明確になっていません。2011年3月11日以前を棚卸し、歴史認識を国家として提示すること。そして、1945年8月15日以前を棚卸し、過ちを繰り返さない国家の覚悟を示し、未来志向の規範と戦略を打ち出すこと。この2つは、健全な憲法論議を展開するする上で、避けて通れないものです。

(文責:梅本龍夫)





① 【司法広報】 「『婚外子は相続半分』見直しも」

  • 最高裁第1法廷は27日、結婚していない男女間の非嫡出子(婚外子)の相続分は法律上の夫婦間の嫡出子の半分とする民法の規定が「法の下の平等」を定めた憲法に違反するかを争っている2件の裁判について、審理を最高裁大法廷に回付した。大法廷は、過去の最高裁判例の変更が必要な場合に開催されるもので、「合憲」判断が見直される可能性がある。

② 【連続企画】 「官民で医の国家戦略を ~医療革新6」
  • 医療の国家戦略を一元的に決める「日本版NIH」(NHIは米国の国立衛生研究所)を目指し、「医療推進イノベーション室」を「健康・医療戦略室」に改組した安倍政権。優れた技術を形にできず、高い水準を求めすぎて世界の流れを見失う、規制が邪魔をしてグローバル化に遅れる、といった日本製造業の轍を踏まない政策が必要だ。

③ 【独自取材】 「96条改正に現実味」
  • 今夏の参院選は、憲法という観点からも戦後政治の画期となるかもしれない。憲法改正を公約に掲げているのは、自民党、日本維新の会、みんなの党、新党改革。公明党も安倍政権との連立合意で「憲法改正に向けた国民的議論を深める」ことの同意した。憲法改正の是非を決める96条の改正に現実味が出てきた。


(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 





【記事要約】 ① 【政府広報】 「70マイクログラム超、外出自粛」

  • 環境省は27日、PM2.5(微小粒子状物質)の健康影響について、注意を必要とする暫定的な指針値を決定した。値は「1日平均で1立方メートルあたり70マイクログラム」で、大多数の人の健康が保たれるとする環境基準値の2倍にあたる。指針値を超えた場合の行動の目安として、「屋外での激しい運動を避ける」ことなどを挙げている。
     
② 【独自取材】 「円安、値上げの足音」
  • 安倍政権の経済政策による円安で、輸入品などの値上がりが広がっている。値上がり進行中なのがガソリンや電気・ガス料金。値上がりの動きが出始めたのが小麦や海外旅行。今後値上げの可能性があるのが冷凍野菜やワインなどの食品・酒、輸入家具、石油化学製品など。円安は輸出企業の業績を後押しするが、家計にとってマイナス面も大きい。

③ 【独自取材】 「東電、被曝記録を未提出」
  • 東京電力は、福島第1原発事故後に働いた約2万1千人の放射線量について、公益財団法人・放射線影響協会(放影協)にまったく提出していないことが判明した。原発作業員は、多重請負構造の下で働いており、会社を転々とする人も多く、一元管理を徹底しないと被曝限度を超えて働き続ける人が続出しかねない。東電のずさんな被曝管理が続いている。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 





① 【政府広報】 「基準の倍で『外出自粛』」

  • 環境省は27日、PM2.5(大気汚染源の微小粒子状物質)について専門家会合を開き、暫定基準値を正式決定した。「1日平均で1立方メートルあたり70マイクログラム」を超えると予測される場合、「不要不急の外出や屋外での長時間の激しい運動をできるだけ減らす」などの注意喚起をする。基本的に都道府県が実施し、注意喚起の判断と手法も委ねられる。


② 【司法広報】 「最高裁『合憲』見直しも」

  • 最高裁第1小法廷は27日、結婚していない男女間の非嫡出子の遺産相続分が嫡出子の半分と定めた民法の規定について、「法の下の平等」を定めた憲法に違反するかを争っている2件の家事審判で、審理を大法廷に回付した。相続差別を合憲と判断した1995年の大法廷判例が見直される可能性がある。


③ 【政府広報】 「メール、政党・候補者限定」

  • 自民党と公明党は27日、今夏の参院選でインターネットを使った選挙運動を解禁する公職選挙法改正案をまとめた。電子メールを使った選挙運動は、政党と候補者に限定する。民主党、みんなの党などは、第3者によるメール送信の解禁を主張しており、与党は参院選後に「速やかに検討する」との見直し規定を付けた。


(毎日jp http://mainichi.jp/
 





① 【政府広報】 「国有施設を無償譲渡」

  • 政府は、総合特区法の改正案を3月中に国会提出し、自治体への投資や企業の競争力を後押しするための規制緩和を行う。柱は、①国有の土地・施設の無償譲渡、②農産物運搬トラックの車検期間延長―。自治体が要望すれば、研究開発用途で無償譲渡できる。また、農産物の生産コストを下げることで、地域活性化につなげる。


② 【発表引用】 「年金基金に外部監査」

  • 日本公認会計士協会は、会計士による年金基金の監査ルールを決め、企業に年金基金に関する外部監査の活用を促す。AIJ投資顧問による年金資産消失問題を受け、再発防止策として外部監査の強化が必要と判断した。


③ 【企業広報】 「コマツ、営業益3000億円超」

  • コマツは、2014年3月期の連結業績(米国会計基準)で、営業利益が3000億円を超える公算が大きい。2013年3月期予想の2300億円(前年比10%減)を大きく上回る。円安効果、中国の建機事業の回復、先進国を中心にした値上げなどが寄与する。


(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 





① 【独自取材】 「裁量労働、増加の一途」

  • 裁量労働制が、2011年度の過去最多の9365件となった。同制度は、一定時間働いたとみなし、仕事の手順や時間配分を従業員に任せる。「専門業務型」(研究開発職など)が7339件(78.5%)、「企画業務型」(本社のホワイトカラー職など)が2017件(21.5%)。経営者は、残業代抑制というコスト削減効果に目が行きがちだ。


② 【連続企画】 「原発が奪った最後 ~犠牲の灯り」

  • 福島県飯館村の大久保美江子(60)の舅(102)が2011年4月に自殺した。村一番の長老だった。全村避難を報じるニュースを見て、「俺、ここから、出たくねぇ」とつぶやいていた。その2ヵ月後、末期の膵臓がんの夫(66)も亡くなった。故郷で看取れなかった。「原発がなければ・・・原発が憎い」。


③ 【独自取材】 「除染危険手当、請求へ」

  • 東京電力福島第1原発事故に伴う国直轄の除染作業で、国が支給する危険手当が支払われていなかったとする作業員ら25人が、元請け代表会社の鹿島や下請け企業に対して、計1380万円の請求をする。近く、労働基準監督署に申し立てる。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)




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