2013.01.12 sat

新聞1面トップ 2013年1月12日【解説】新聞の「第3の立場」

新聞1面トップ 2013年1月12日【解説】新聞の「第3の立場」


【リグミの解説】

「政府広報」と裁判報道
新聞記事に「スタンプ」を押し、「色分け」する提案の続きです。昨日の「リグミの解説」では、全国紙
(読売、朝日、毎日、日経)の1面記事の大半が「政府広報」の類になっていることを指摘しました。本日もその傾向に変化はありませんが、大きなトピックとして、大衆薬のインターネット販売に関する最高裁判決の記事が、毎日と日経のトップ記事として取り上げられています。

そもそも「政府」とは、何を指すのでしょうか。「英米系の国家では、立法・司法・行政の総称だが、ドイツ系の国家と日本では、内閣および行政機構を指す」と広辞苑では定義しています(参照:Wikipedia)。【政府広報】というスタンプは、「行政の司令塔となる内閣」「内閣を支える与党」「行政の執行機関となる中央省庁」を想定していますので、「狭義の政府」ということになります。

政府の定義
「広義の政府」ともいえる3権のうち、国会の過半は与党によって占められるますので、立法が内閣と与
党の意向に沿う限り、一応カバーされます。一方、国会内の野党の動向を伝える記事は、「政治」であっても「政府」とは呼ばない方が誤解が生じないでしょう。では、司法の位置づけはどうするか。

本日のトップ記事にあるように、裁判所の判決はしばしば、「国」を原告や被告とするものです。ここでの「国」とは、「狭義の政府」である行政(内閣と中央省庁などの官僚機構)が対象となるケースがほとんどだと思います。とすれば、裁判所の判決を伝える記事に押すスタンプは、どういう種類になるのが良いのでしょうか。ここだけ、「広義の政府」と解釈して、【政府広報】とする手もありますが、ちょっと違和感があります。

新聞の軸足はどこか
この違和感、どこから来るかというと、結局は新聞(マスコミ)の「軸」がはっきりしないことにありま
す。衆議院のサイトに「三権分立」の解説があります。「日本国憲法は、国会、内閣、裁判所の三つの独立した機関が相互に抑制し合い、バランスを保つことにより、権力の濫用を防ぎ、国民の権利と自由を保障する「三権分立」の原則を定めています」(shugiin.go.jp)。「三権」が互いに牽制しあう民主主義の統治機構の中で、マスコミはどこに報道の「立ち位置」=「軸」を定めているのでしょうか。

上に引用した衆議院の公式サイトの図を見れば一目瞭然なように、「三権」の中心にいるのが、「主権者=国民」です。「政府」とは何かを定義したり考えたりすることは、マスコミの位置づけを定義することを意味します。国民の視点に立って、行政、立法、司法を監視し、批判と提言をしていくのが、新聞をはじめとするマスコミの基本的な役割であり、ぶれてはならない「軸」ではないでしょうか。

世論形成の場
さらに上記の図を見ていくと、「三権」に対する「国民(主権者)」の影響力の及ぼし方が、書かれてい
ます。まず国会。これは「選挙」です。機会は限られていますが、効果は直接的で有効です。司法に対しては、最高裁裁判官の「国民審査」があります。しかし、ほとんど国民に意識されていないのが実情です。そして行政に対しては「世論」とあります。

総理大臣や閣僚の選定や、官僚の人事に対して、国民は直接的な影響を与えることができません。だからこそ、逆説的に「世論」こそが、最も重要な武器になるのではないでしょうか。新聞(マスコミ)の使命は、「世論」を形成する器となり、代弁者となること。この基本中の基本を、私たちは再認識する必要があると思います。

新聞の「軸」が国民からずれ、「政府広報」のような報道を繰り返し、内閣や与党、官
僚機構、あるいは国会や裁判所の意向や意図を優先する報道が大半を占める状況を、少しずつでも変えていく必要があります。そのためにどうしたらいいか。

裁判員制度に学ぶ
新聞報道の問題は、「世論」とは何か、という民主主義の基本テーマに立ち返ることになります。健全な
「世論」をつくりあげる「場」をどう育成するか。そもそも「世論」とは何なのか。リグミでは、健全な世論は、時代のムードや空気とは別のものと考えています。瞬間風速で「好きと嫌い」を判じるような世論の在り方は、国の在り方として健全ではありません。国民ひとりひとりが、自分で考え、責任をもって「こうすべき」と主張できる「立場」を鮮明にしていくこと。言葉を代えれば、「パブリック・オピニオン(公論)」といえるものをつくっていくことが、大事です。

そのために参考になるのが、司法制度改革で実現した「裁判員制度」です。国民の代表として無作為に選ばれた裁判員が、判決に関わる裁判員制度は、国民の意識を変えました。公のために、「こうすべき」を判断する。「三権」などの公権力に一任せず、自ら考え、心を痛め、苦しい判断を出していく。そのプロセスを経た者は、「犯罪とは何か」「裁きとは」「償いとは」そして「犯罪を生まない社会の在り方」まで、自問自答します。社会の「当事者」になる経験といえます。

現代の新聞には、公権力の代弁者となるのでなく、逆にただ遠くから批判したり論評するだけもない「第3の立場」が求められています。有権者と対等の立場で交流し、自ら司法における「裁判員」のような心づもりになって記事を書く。国家運営の「当事者」として、国民と協働編集の記事をシリーズで積み上げていく。裁判員制度には、新聞などのメディアが、「世論形成の
公器」となる上で、参照すべき学びが、たくさんあると思います。

(文責:梅本龍夫)
 





【記事要約】 「財政出動、生活に力点」

  • 国の緊急経済対策が確定し、約10.3兆円に上る思い切った財政支出を行う「アベノミクス」が始まった。対策は、国民生活の安心・安全に9000億円を投じることも特徴となる。
  • 同対策の具体例は、以下の通り。▽新型インフルエンザの発生に備えたワクチン備蓄の維持、▽介護と連携した在宅医療の体制整備、▽医学生に対する就学資金の貸し付け、▽70~74歳の医療費1割自己負担の継続、▽保育士の増員と「安心こども基金」の積み増し、▽空洞化地域の施設を中心部に集中化、▽道路インフラ、上下水道の集中的補修、▽学校、医療施設の耐震化、▽祖父母の孫への教育資金の一括贈与の非課税―。
  • 政府は、緊急経済対策の実施によって、実質GDPを2%程度押し上げ、60万人程度の雇用創出を見込む。ただし、雇用効果はGDPから機械的に算出したもので、現実はこれを下回るとの見方もある。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 





【記事要約】 「20兆円景気策、借金頼み」

  • 安倍内閣は、緊急経済対策を閣議決定した。財政支出、金融緩和、成長戦略を「3本の矢」とする「アベノミクス」の第1弾となる。国が10.3兆円、地方の支出や企業の融資などを含めた総事業規模は、20.2兆円となる。
  • 緊急経済対策の内訳は、以下の通り。▽復興・防災対策=3.8兆円、▽成長による富の創出=3.1兆円、▽暮らしの安心・地域活性化=3.1兆円、▽その他=0.3兆円―。合計10.3兆円のうち、半分を公共事業が占め、60万人の雇用創出を目指す。
  • 歳出は、緊急経済対策以外に基礎年金の国庫負担など2.8兆円があり、補正予算総額は13.1兆円。その財源は、以下の通り。▽予算の使い残しや埋蔵金など=5兆円強、▽追加の借金(国債発行)=約8兆―。膨張路線に転じ、国の財政は厳しさを増す。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 





【記事要約】 「薬のネット販売解禁」

  • 最高裁小法廷は11日、医師の処方箋なしに購入できる一般用医薬品のインターネット販売を一律に禁止した厚生労働省の省令は、違法で無効との初判断を示した。訴えていたのは、ネット販売の「ケンコーコム」と「ウェルネット」。
  • 判決の要旨は、以下の通り。▽国の上告を棄却する、▽改正薬事法の条文にネット販売規制の趣旨を明確に示すものはない。国会に販売禁止の意思があったとは言い難い、▽市販薬1、2類のネット販売を一律に禁止した省令は、改正薬事法の趣旨を逸脱し、違法で無効―。
  • 省令を無効としたことで、同業他社も販売が事実上可能となった。田村厚労相は、「判決の趣旨に従い、必要な対応策を講じる」と述べ、国は規制見直しに入る。

(毎日jp http://mainichi.jp/
 





【記事要約】 「薬ネット販売、解禁へ」

  • 厚生労働省は11日、一般用医薬品(大衆薬)のインターネット販売を条件付きで解禁する方針を決めた。「省令は違法で無効」とする最高裁第2小法廷の判決を受けたもの。
  • 原告は、医薬品・健康食品のインターネット通販会社の「ケンコーコム」と「ウェルネット」。両社は、販売を再開した。楽天は、加盟店向けのサポートを強化する。アマゾンジャパンは、加盟店だけでなく直販も含め参入を検討する。現時点では、規制が事実上なくなり、小売やネット企業の参入が相次ぎそうだ。
  • 「省令のよる規制は改正薬事法の委任範囲を逸脱している」と結論づけ、国の敗訴が確定した今回の判決は、行政による安易な省令規制に厳しい姿勢を示したものといえる。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 





【記事要約】 「『心のノート』復活、現場当惑」

  • 道徳副教材「心のノート」は、神戸の連続児童殺傷事件などの深刻な少年犯罪や、いじめ、不登校が社会問題化したことを受け、2002年度から文部科学省が配布した。「一定の方向に子どもを誘導することになりかねない」との批判があり、民主党政権では中止されていた。
  • 自民党は政権復帰で、「心のノート」の小中学校への配布を復活しようとしている。政権交代ごとにコロコロと変わる施策に、教育現場は戸惑っている。
  • 都内中学校の男性教諭(60)は、「モラルを教えることは大切だが、心のノートが本当に役立つとは思えない。子どもに刷り込もうとする大人の思い上がりではないか。学校で現実に起きていることを題材に、子どもたちに考えさせることが大切だ。教育が政治の道具に使われる危険を感じる」と指摘する。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)




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