2012.12.30 sun

新聞1面トップ 2012年12月30日【解説】「心の国境」を拡大する

新聞1面トップ 2012年12月30日【解説】「心の国境」を拡大する


【リグミの解説】

「3つの態度」
人間には、「3つの態度」があります。1つは、前に出て自己表現をする「積極的な態度」です。2つ目は
その反対で、後ろに下がり内にこもる「消極的な態度」です。そして第3に、積極的な人と消極的な人のちょうど中間に入って両者を取り持つ「融和的な態度」があります。

本日の毎日新聞の1面トップ記事は、「イマジン」という特集記事の第1回です。「もしも、こうなれば」と意志をもって未来を想像することで、日本が変われたら、という願いが込められた調査報道です。その第1回のテーマは、「セカ就」。「世界に向けた就職」の略です。窮屈な日本を飛び出す若者たちが注目するのが、高度成長に沸くジャカルタ。日本の1960年代を彷彿とさせる活気が、若者を引き付けています

「セガ就」の背景
この記事の中で、気になった表現を挙げてみます。

  • 「社会にある独特の空気がもつ『抑圧感』『窮屈だ』で、何事にも奮い立たなくなった」
  • 「自分の意見をはっきり言うことは海外では当たり前だが、日本では『毒舌』とみなされる」
  • 「日本にある『せかせかした感じ』『電車が少し遅れただけで、いら立つ感じ』になじめない」
  • 「日本の旧弊の象徴である『学歴主義』と『社歴主義』は、理屈ではない、空気感のようなものとしていまだに続いている」
  • 「安全な人生を送ろうと思ったら、一部の大企業に残る終身雇用や、年功序列の古い世界に入っていくしかない」
  • 「若者たちの感覚の根底には、今の日本社会に対する強い拒絶感がある」
     

平成の24年間で、世界は激変しました。しかし日本はグローバルな変化に背を向けるように社会全体が「消極的な態度」を続け、「日本社会は変わらない」という選択を繰り返してきたのでしょうか。「失われた20年」という表現は、変化を拒絶したり、ガラパゴス的に日本列島の中に閉じこもった経済活動をした結果、世界の潮流に乗り遅れてしまった日本の現状を嘆いたものです。

「成果主義」の文化的バイアス
しかし、日本は実際には激変しました。バブル崩壊後に経済が行き詰まり、大企業が倒産する時代となり
、企業は生き残りのために人件費と雇用形態に手をつけました。「成果主義」を導入し、個人の地位や報酬に格差をつけるようになりました。次に、正規雇用を減らし、非正規雇用を増やしました。その結果、社会的な格差が広がり、安定した生活基盤を築けない貧困層が拡大しました。なぜこのような状況になってしまったのでしょうか。

「成果主義」では、「積極的な態度」を取り成果を上げる上位10~20%の人を引き上げ、「消極的な態度」に留まり成果を上げられない下位の10~20%の人を引き下げます。そのことで、中間にいる「融和的な態度」を取る60~80%を活性化し、全体のパフォーマンスを上げようとする制度です。その前提にあるのは、個人主義、自己責任、成功者を賞賛する、といった社会規範や文化的価値です。米国に典型的ですが、日本にはなじみのないものでした。

米国は、「積極的な態度」が国民性としてあり、「成果主義」がなじみます。しかし日本の国民性は「融和的な態度」を基本としています。上位の「積極的な態度」の人も下位の「消極的な態度」の人も、ぶあつい中間層である「融和的な態度」の人を介して、1つのチームとして機能し、全体で成果を達成する。日本は、高度成長期を通してそんな組織や社会を長く続け、GDP世界2位の地位を確立してきました。

「新自由主義」の功罪
「成果主義」で、日本は米国型社会にはなれませんでした。成功した人を賞賛できず(むしろ嫉妬したり
、足を引っ張ったりし)、一方で今まで一緒にやってきた仲間で脱落していく人に、手を差し伸べるのをやめてしまいました。チームプレイの要となる「融和的な態度」の中間層が、上位の足を引っ張り、下位の足切りをするというネガティブな行動をあからさまにするようになったのが、この20年の変化ともいえます。それが、「抑圧感」や「窮屈さ」さの背景にあるものだと思います。

1980年代以降、世界を席巻した新自由主義の考え方(小さな政府、規制緩和、減税、市場原理の導入、個人の自由の尊重)の流れの中に「成果主義」は位置づけられます。それは、国家や社会の在り方の全体を大きく変えるものでした。しかし日本は、「小さな政府」「規制緩和」「減税」は中途半端なまま、雇用面を中心に「市場原理の導入」と「個人の自由の尊重」を導入しました。

理由はさまざまですが、日本は米英を中心とした新自由主義の価値観を、社会として、国民性として、すんなり受け入れられなかったのだと思います。個人に性格の違いや個性があるように、国家にも文化の違いや社会の独自性があります。日本は、「変われない」のではなく、「変わりたくなかった」のではないでしょうか。

グローバル・ニッポン
自分の性分に合わない変化を押し付けられても、人は変われません。自ら「変わりたい」と心底願い、ポ
ジティブな動機づけがされて、初めて変化できます。毎日新聞の記事は、そんな願望を持った若者たちにスポットライトを当てています。彼らは、日本を見限ったように見えますが、本当は海外に飛び出すことで、大きなブーメランとなって日本に新しい風をもたらそうとしているのだと思います。

日本には日本の変化の方法論があるはずです。日本の中心層である「融和的な態度」の人々が、今は社会の安全と安心を疑い、すっかり「消極的な態度」に傾斜し、保身に走っています。この中間層の内側から、どうやって「積極的な態度」を引き出していくか。世界の潮流である「個人の自由と多様性」を尊重しつつ、日本の伝統芸である「チームプレイ」をどうやって融合していくか。「融和的な態度」のオリジナリティーの発揮のしどころは、「自由闊達なチーム創り」にあるなだと思います。

元々、積極的な人は海外に飛び出しています。かつてのブラジル移民や米国移民のように、出国した人々を棄民扱いするのでなく、世界に飛び出す若者たちをグローバル・ニッポンの仲間として、どうやって1つのチームを創り上げるか。21世紀の日本の「心の国境」を一気に拡大すること。そこに大きなヒントが隠されているように感じます。

(文責:梅本龍夫)
 





【記事要約】 「ドコモ、新OSスマホ」

  • NTTドコモは、共同開発OSの「タイゼン」を搭載したスマートフォンを2013年に発売する方向で検討に入った。ドコモは、世界シェアの約9割を占める米グーグルと米アップルに対抗する勢力づくりを図る。
  • 「タイゼン」は、韓国サムスンと米インテルが中心になって開発しているOS。オープンソース方式で、アプリ開発が手軽にできる。グーグルの「アンドロイド」やアップルのiPhone用OSの「iOS」と違い、基本技術が公開されており、携帯電話会社による独自サービスの提供や、独自の安全性向上が図れる。
  • ドコモは、携帯電話最大手だが、国内携帯電話3社の中で唯一iPhoneを発売していないことが影響し、番号持ち運び制度で4年間「独り負け」状態が続いている。他社と差別化された「タイゼン」端末を販売することで巻き返しを図る。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/





【記事要約】 「比カジノ進出、高官接待」

  • 大手遊戯メーカー「ユニバーサルエンターテインメント」(UE社)が、フィリピンでのカジノリゾート開発に関連して、フィリピン政府高官らに対して接待を繰り返していたことが判明した。カジノは、フィリピンの国家的プロジェクト。
  • UE社は、2009年にアルゼから改称。パチンコ業界用の遊技機販売で業績を伸ばし、1998年に株式公開、ジャスダックに上場している。フィリピンに約2500億円投じ、カジノホテル2棟とショッピングモールによるカジノ事業の建設を進めている。
  • 接待は、UE社と敵対関係にある米国のカジノ経営会社ウィン・リゾーツ社が今年2月に公表した調査報告書で明らかになった。フィリピン娯楽賭博公社のカジノ免許部長は、「接待は事実だが(UE社側に)営業免許で便宜を図ったことはない」と述べた。接待費は、3年間で約11万米ドル(約946万円)。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/





【記事要約】 「成長の熱気求め ~イマジン(1)」

  • 2012年、「セカ就」という新しい言葉が生まれた。「世界に向けた就職」の略で、就職情報サイト「リクナビ」から出た言葉だ。
  • 日本の若者は、海外に出たがらないと言われるが、「グローバル経済に船出する」というニュアンスの「セカ就」をかなりの学生が認識し動いている、とリクナビ編集長の岡崎仁美氏は指摘する。
  • 高度成長の真っただ中にあるインドネシアで「セカ就」をした若者たちは、躍動の中に身を置き、活き活きとしている。日本にいたときの閉塞感とは大違いだ。日本の将来を悲観する材料はいくらでもあるが、「もしも、こうなれば」と意志をもって未来を想像することはできる。

(毎日jp http://mainichi.jp/





【記事要約】 「台湾大手、邦銀買収へ」

  • 台湾の中国信託商業銀行が、東京スター銀行の買収向け交渉を進めている。ほぼすべてのか株式を約500億円で買い取る。外銀による邦銀の買収は初めてのケースとなる。
  • 東京スター銀行は、東京相和銀行が前身の第二地銀。2001年に米投資ファンドのローンスターの傘下に入った。新生銀行などの債権者が事実上の株主となった。中国信託商業銀行は、台湾の大手銀行。預金量は台湾の民間銀行では最大規模。2008年の金融危機以後、みずほコーポレート銀行による米メリルリンチ出資、三井住友銀行におる英バークレイズ出資、三菱UFJ銀行による米モルガンスタンレー出資など、海外金融機関のM&Aが目立っていた。今後は、海外勢による国内金融機関の買収などにより、国内再編が進む可能性がある。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/





【記事要約】 「オスプレイ調査費計上」

  • 防衛省は、新型輸送機MV22オスプレイを購入し自衛隊に配備することを検討する調査・研究費、約1千万円を2013年度予算に計上する方針を決めた。複数の同省関係者が明らかにした。
  • オスプレイは開発段階から墜落事故が相次ぎ、32人の死者を出した。沖縄普天間基地に配備されたが、地元は配備に反対。現在も撤回を求めている。
  • オスプレイは垂直離着陸輸送機で、ヘリコプターと固定翼飛行機を融合させている。製造コストは、1機1億2千万ドル(約100億円)。普天間基地に12機配備されている。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)




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