2012.12.27 thu

新聞1面トップ 2012年12月27日【解説】安部政権、マスコミ、民意

新聞1面トップ 2012年12月27日【解説】安部政権、マスコミ、民意


【リグミの解説】

本日の新聞1面トップは、読売、朝日、毎日、日経、東京の5紙すべて安倍政権の発足に関する記事です。各紙の論説を比較します。

読売新聞: 
「危機突破へ政権の総力を挙げよ ~『強い経済』取り戻す知恵が要る」(社説)

○ 日本が直面する難問を解決しようという意欲のうかがえる布陣
○ 最優先課題の経済再生のために「霞が関」を使いこなせ
○ 野田政権の「2030年代原発稼働ゼロ」を早急に撤回せよ
○ TPPへの参加を決断すること
○ 社会保障制度の持続のために、給付削減は避けられない
○ 柔軟でしたたかな外交戦略を推進せよ
○ 「決められない政治」はもううんざりだ、次元の違う政権運営を期待する


読売は、安倍首相の掲げた公約や主張にほぼ全面的に賛同しています。特別編集委員の橋本五郎氏は仮説記事で、安倍氏が「タカ派」で「右傾化」しているとの海外からの指摘に、安倍氏はそのような単純なラベルで判断されるべきでないと、反論しています。安倍氏は、「リアリズム(現実主義)」重視との見立てです。

朝日新聞:
「再登板への期待と不安 ~安倍内閣発足」(社説)

○ 求められるのは現実的な政策判断、派手なパフォーマンスや掛け声ではない
○ 中央銀行を財布代わりにばらまきをすれば、財政破綻を招く危険がある
○ 10兆円の補正予算を求める自公の威勢の良い呼び声があるが、そんな余裕はない
○ 原発・エネルギー政策で、自公が「脱原発依存」で足並みを揃えた意義は大きい
○ 日中韓の指導者交代は、外交関係の改善のチャンス
○ TPPの交渉参加の是非の結論を出す時期だ
○ 河野談話の見直しは、戦前の軍国主義の正当化につながり、中韓と欧米の厳しい批判を招く


朝日は、自公連立によって、新政権が現実路線を取ることを評価する一方で、経済政策に対しては、一定の懸念を示しています。また歴史認識には大きな懸念を戴いていることがわかります。

毎日新聞:
「『自民の変化』示す政治を ~第2次安倍内閣」
○ 自民党は日本を取り巻く困難の責任がある、自制ある政権運営で変化を証明せよ
○ 経済再生を優先し、改憲論議を急がないのは妥当な判断だ
○ 民主党は成長戦略が不十分だった、官庁縦割りの施策でない大胆な規制緩和や内需創出をせよ
○ 日銀法の改正までしての圧力行使は行き過ぎであり、通貨の信認を損ないかねない
○ 大型補正予算も、公共事業への無軌道なばらまきに陥れば、信任を失った自民党の再来だ
○ TPPへの積極参加は、避けて通れない
○ 使用済み核燃料の処理問題を放置したまま、「脱原発依存」路線を変更すれば、無責任
○ 日中韓の指導者交代を、外交関係の改善に生かし、負のスパイラルを転換せよ


毎日は、経済優先、改憲の後回しを評価する一方で、金融政策についてはきわめて批判的。そもそも自民党の長期政権が日本の長期低迷を招いた責任の自覚を促しています。

日経新聞:
「安倍自民の力結集し政治の安定を」(社説)
○ 電力業界との関係が深い甘利氏(経済再生・一体改革)は、電力改革にどこまで切り込めるか
○ TPPは、早く交渉入りを決断すべきだ
○ 外交は、まず日米同盟を修復し、強化せよ
○ 普天間基地移設問題では、現行移設案への地元理解を得られるよう説明を尽くせ
○ 日韓関係を修復し、日米韓で北朝鮮の暴走を止めるべき
○ 対中国も現実路線の外交で対立の負の連鎖に歯止めをかけるべき


日経は、日米関係を基軸にすべきとのスタンスを明瞭にしています。経済政策の中枢を担う甘利氏が、電力業界と深い関係にあることを指摘しているのは、注目すべきポイント。

東京新聞:
「謙虚さをいつまでも ~第2次安倍内閣発足」(社説)
○ 安倍首相は、今回は「安倍カラー」を抑え、当面「安全運転」に徹する考えだ
○ 関係が冷え込む近隣諸国をいたずらに刺激しない判断は妥当だ
○ 組閣も手堅い布陣で「安全運転」の人事だ
○ 共同通信社の衆院選後の世論調査によると、安倍政権が優先すべきは以下の2点:
①「景気・雇用対策」=55%、②「年金制度改革など社会保障」=33%
○ 物価上昇だけで国民生活は向上しない、賃金上昇には年単位を要する
○ 公明党には、改憲や原発政策などで歯止め役を堂々と果たして欲しい


東京新聞は、安倍首相が「安全運転」を謙虚に続けることを希望する記事です。

The Economist (英エコノミスト誌):
Go on Mr. Abe, surprise us」(さあ安倍さん、驚かせてください)
○ 自民党の地滑り的勝利は、民主党の崩壊が原因だ
○ リーダーシップと政策の考え方で、自民党に新味はない
○ タカ派でゆがんだ歴史認識の元主である安倍氏も、選挙期間中に日銀を叩くだけで、経済再生のため
の新鮮で大胆な改革案は示されなかった
○ 日銀に明確なインフレ目標を求めることは正しいが、その政策実行方法にまで踏み込むのは、中央銀
行の独立性を損ない、巨大な財政赤字問題をさらに深刻化させかねない
○ 安倍氏が取り組むべきは、①女性の職場進出、②大胆な規制緩和、③TPP参加―の3点であり、これを
実現すれば、日本を長い停滞から救い出した首相と認められるだろう
○ 安倍氏は、改憲論者の岸信介元首相の孫であり、靖国神社参拝を公言しているが、最初の政権では靖
国参拝をせず、日中、日韓の関係を改善した
○ 第2次政権では、中国との領土問題を認め、近隣諸国との経済関係を強化し、交換学生による親善を
進めるべきだ
○ 政治家が再チャレンジの場を与えられることは稀であり、安倍氏はそれを無駄にすべきでない


エコノミストの記事は、読売新聞の社説と好対照です。欧米メディアのひとつの典型的な「ビュー」として参照すべきだと思います。

メディアの論調と民意

5紙とエコノミスト誌の論説の肝をつなぐと、以下の通りです。
 

安倍首相は、『リアリズム』に徹し(読売)、
河野談話の撤回などには踏み込まず(朝日)、
政策運営で
は自民党の過去の問題を謙虚に総括し(毎日)、
経済再生に軸足を置く『安全運転』を続け(東京)、
交では、日米関係の修復に努め(日経)、
中国や韓国など近隣諸国との関係改善を果たすことで、
2度目
の首相としての使命を果たせる(エコノミスト)」


保守系の読売、日経と、リベラル系の朝日、毎日、東京、エコノミストでは、ニュアンスに違いは当然あります。しかし、「失われた20年」から脱却し、経済再生を果たすことは、日本のみならず、グローバルに求められている、とする点では共通しています。東京新聞が引用する共同通信の世論調査でも、「経済再生」がすべてに優先されています。この中核的なコンセンサスに集中することが、民意に沿う政治といえます。

(文責:梅本龍夫)
 





【記事要約】 「安倍内閣発足」

  • 自民党の安倍総裁は26日召集の特別国会で、首相指名を受け、第96代首相に選出された。安倍首相は組閣に着手し、第2次安倍内閣を発足させた。
  • 首相は新内閣を「国家国民のための危機突破内閣」とする。最重要課題として、デフレ脱却と円高是正による経済再生と、東日本大震災からの復興を掲げる。
  • 首相は5年ぶりの再登板。1度辞任した首相が再び首相に就任するのは、64年前の吉田茂以来。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/





【記事要約】 「経済再生、優先」

  • 自民党の安倍総裁は26日、国会で首相指名を受け、第96代首相に就任した。安倍首相は組閣を行い、自民党と公明党連立の第2次安倍内閣を発足させた。
  • 首相は新内閣を「危機突破内閣」と述べ、デフレ脱却を最優先課題に位置付ける。初閣議で、新規国債発行枠にこだわらない大型の今年度補正予算案の編成を指示。
  • 首相は2007年以来5年ぶりの再登板となる。戦後では吉田茂以来、2度目。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/





【記事要約】 「経済重視で再挑戦」

  • 自民党の安倍総裁は、26日召集の第182特別国会で首相指名を受け、第96代首相に就任した。首相はただちに組閣に着手し、自民党と公明党連立による第2次安倍内閣を発足した。
  • 安倍政権は、「デフレ脱却と経済再生」に最優先で取り組む。首相は、「大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略の三本の矢で、経済政策を力強く進めて結果を出していく」と強調。
  • 首相は、経済最優先の政策実行で、来夏の参院選でも勝利し、本格的な政権の確立を目指す構えだ。民主政権は、3年3ヵ月で幕を閉じた。

(毎日jp http://mainichi.jp/





【記事要約】 「『強い経済を回復』」

  • 第2次安倍内閣が26日に発足し、自民党と公明党は3年3ヵ月ぶりに政権に復帰した。安倍氏は2006年9月以来の再登板となる。
  • 首相は、「政権に課せられた使命はまず強い経済を取り戻すことだ」と表明。金融政策、財政政策、成長戦略を総動員し、経済再生を目指す考えを強調した。
  • 党人事では清新さをアピールし、閣内は重要ポストに有力者や政策通を配し、安定感を重視。経済再生を最優勢に掲げ景気浮揚を実現することで、来夏の参院選で自公両党による過半数確保を目指す。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/





【記事要約】 「原発維持シフト鮮明」

  • 自民党の安倍総裁は26日、国会で首相指名を受け、第96代首相に就任した。同日、自民党と公明党連立の第2次安倍内閣が発足した。
  • 原子力規制委員会を所管する環境相に、原発維持派の石原伸晃・前幹事長を起用。安倍政権の原発維持シフトが鮮明になった。
  • 首相は「デフレ脱却が政権に課せられた使命だ。大型の2012年度補正予算を組む」と表明。また防災対策を進める「国土強靭化」担当相を新設。公共事業を積極推進するバラマキ色が強まる見通しだ。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)




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