2012.12.12 wed

フクシマ・センダイ・カルイザワ それぞれの地で考えること(第1回)

フクシマ・センダイ・カルイザワ それぞれの地で考えること(第1回)


髙木 亨


 いわき市川前町志田名(作付制限区域の水田)2012年8月5日

 「福島」「ふくしま」「フクシマ」「fukushima」…3.11以降、福島県を表す言葉がいくつも出てきている。それぞれ持つ意味合いが表現者や受け手によって異なっている。カタカナやローマ字表記では、3.11以降の原子力災害と放射能汚染をイメージさせる。もともとカタカナでフクシマと書くことはあまりなかったようである。一方、ひらがな書きは福島県のブランドイメージ形成によく使われていた。私の所属する「うつくしまふくしま未来支援センター」もひらがな表記である。

 「福島」という言葉が、県名であり都市名であり、そして原子力発電所の名前にもなっていたがため、不幸であった。連日「福島」の名前がマスコミを通じて連呼された。このため、福島県全体が福島第一原子力発電所(フクイチ)から放出された放射性物質により汚染された、と多くの人に思われている。また、うがった見方であるが「福島県以外には放射性物質が飛んでいない」と思わせたい節も感じ取れる。もちろん「県境」はある種人為的に引かれたものであり、放射性物質は県境を越え関東地方など遠くへと飛んでいる。人為的境界などお構いなしである。県境ですべて放射性物質が落ちることはあり得ない話である。


いわき市川前町高部(田植えの様子)2012年5月27日

 福島県は大きく三つの地域に分かれている。東側(太平洋側)から西に向かって「浜通り」「中通り」「会津」である。「浜通り」の中心は南部に位置するいわき市であり、電力供給地となっていたのは「浜通り」の中央、双葉地域である。新幹線・東北自動車道が通っているのは「中通り」、県庁所在地の福島市や郡山市は、この地域にある。そして、白虎隊等その歴史で有名なのが「会津」である。



 汚染の度合いは県内でも異なっている。フクイチに近い浜通りが汚染されているかというと、そうでもない。むしろ中通りの方が空間放射線量が高いところがある。また、フクイチから北西方面一帯は高線量地域となってひどく汚染されている。一方、会津はまさに「風評被害」であり、実害はほとんど無いといえる。観光が主力産業の地域であるため、「風評被害」の影響は地域に相当のダメージを与えた。当初から、地域の区分、汚染状況の把握などが適切になされていれば、と思うと残念でならない。当初示されたフクイチを中心とする同心円図は、とても罪深いものだと思う。


いわき市中央卸売市場の張り紙(カツオの風評被害打破)2012年7月20日

 その結果、福島県のものは(すべて)忌避され、県外のもの(近接県のもの)は比較的抵抗なく受け入れられている。福島県の農産物はサンプリング調査とはいえ、すべての産品が測定されて、新聞に毎日測定結果が掲載されているにもかかわらず、である。県内の家庭で父親は福島県産のものを食べるが、母親と子どもは一切口にしないという話も少なからず耳にする。

 「福島県」のみの汚染と感じてしまう地理的な認識の不足と、県内外での情報格差。福島県を苦しめている要因の一つといえる。もっとも、こうした背景には政府・東電・県行政の情報伝達のまずさ、信頼性の無さ、大手報道機関の姿勢等があることは言うまでも無い。

 地理学では、人為的な便宜のために定められた地域の事を「形式地域」と呼んでいる。今回の放射能災害とそれにともなう「福島忌避」の動きは、この「形式地域」しか考えていないことの表れである。あの同心円図は、形式地域そのものであった。

 その一方で実質的に汚染された地域の把握は進んでいない。地理学の用語でいう「実質地域」(実際の事象に従った地域=今回の場合は、放射性セシウム汚染の分布範囲)は、本当のところ正確に把握されていない。詳細な汚染マップは未だ公式的に作成されていない。SPEEDIの地図は予測マップであって実測図ではない。また、航空機モニターによる汚染マップが発表されたが、マクロスケールのため、詳細な部分、ホットスポットの存在はわかっていない。現状把握がなされていない状況が未だに続いている。


猪苗代町(春先の田園風景)201241

 それでも県内では、農業者や住民の手によって把握されつつあるが、県外ではお寒い状況である。賛否両論あるが、群馬大学の早川先生が作られた放射性セシウム汚染マップ「早川マップ」は、いち早く実質地域を表現したものとして優れているものだと思う。

 福島県を含め、放射能汚染をされた地域では、大雑把な把握しかなされていないのが現実である。本来、状況を把握することが、次なる対応に結びつくはずである。しかし、原子力災害ではそのような手はずを踏まず、場当たり的な対応としか見えないことをやっている。「なかったこと」にしたいのでは、という姿勢が見て取れる。こうした為政者側の姿勢がフクシマの問題を悪化させ、原子力行政への信頼を失わせている。加えて大手マスコミの報道姿勢も。彼らは気づいているのだろうか。確信犯かもしれないと思ってしまう今日この頃である。


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著者プロフィール
 

髙木 亨(たかぎ・あきら)
 
福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任准教授
博士(地理学)、専門地域調査士。
東京生まれ、東京近郊で育つ。
立正大学で地理学を学ぶ。
立正大学、財団法人地域開発研究所を経て2012年3月から現職