2012.11.28 wed

新聞1面トップ 2012年11月28日【解説】「卒原発」という物語

新聞1面トップ 2012年11月28日【解説】「卒原発」という物語


【リグミの解説】

「違い」を創る経営
ビジネスで一番大事なことは、しっかりした戦略を打ち立てることです。戦略とは、「ヒト、モノ、カネ」と呼
ばれる経営資源を有効に配分し、際立った活動をすることです。経営資源は限られていますから、すべての活動を同時並行的にはできません。「違い」を創る経営。これが戦略的な経営のカギです。

スターバックス・コーヒーにおける「違い」のひとつは、徹底した禁煙です。かつてのコーヒーハウスといえば紫煙をくゆらす男性の溜まり場でした。スターバックスは、煙草はコーヒーの香りを吸着してしまうという理由で、店内禁煙を実施しました。その結果、喫煙する中年男性に代わって、煙草の煙を嫌う若い女性たちの支持を得ました。

「誰に嫌われるか」を決める
「違い」を創る経営は、言葉を代えれば、「誰に嫌われるか」を決める経営です。煙草を吸う従来のコーヒーハ
ウスの中心顧客層を失いたくなければ、禁煙政策はできません。せいぜい分煙です。禁煙という「嫌われるポリシー」を打ち出すことで、「たばこの煙のない空間を求める人々に好かれる」という「違い」を創れます。政治は、どうでしょうか。

本日の新聞1面トップは、読売、朝日、毎日、東京の4紙が滋賀県知事の嘉田氏が結党した「日本未来の党」のことを大きく報じています。「脱原発」を掲げる政党が乱立する中、「第3極」として勢力を結集できずにいる状況に、嘉田知事は業を煮やしました。そして「卒原発」というコンセプトを打ち出し、脱原発派の結集を図りました。

「卒原発」
「卒原発」には、「代替エネルギーや、電力供給地域の経済の問題などを解決するカリキュラムを作り、原子炉
から卒業していく」という意味が込められています。原発推進派の主張の基本に、「経済」(火力発電に依存することで原油コストが増大する、代替エネルギーは不安定でコスト高であり開発に時間がかかる、原発立地の経済の問題、など)があります。こうした声に応える具体的な施策を盛り込んだ脱原発でなければ、現実性がない。嘉田氏が主張する「卒原発」の「違い」がここにあります。

政治とビジネスが、単純に比較できない大きなポイントは、ビジネスが対象顧客を選別するところから始まるのに対して、国の政治は国民全体を対象にするということです。ビジネスであれば、禁煙という「違い」によって、たばこを好まない顧客を魅了できます。政治も、「脱原発」を打ち出せば、原発反対派の有権者を魅了できるという点では、一見同じに見えます。

しかし、政治は政権与党となり、法律を作り、行政を動かすことで、国全体を統べる活動です。小政党として「即時原発ゼロ」を主張するだけでは、国家を運営することはできません。そういう意味では、嘉田氏が打ち出した「卒原発」は、政権与党を目指す自覚の表れと解釈することも可能です。問題は、そのことでいつしか「違い」が不鮮明になり、「何をしたいのかわからない」、あるいは、「何でもあり」の政党になっていくことです。

複雑な世界を丸ごと受け止める
民主党は、当初は2030年の原発比率15%を想定して「国民的議論」を始めたようですが、「原発ゼロ」を求める声
が予想を超えたため、「2030年代に原発ゼロ」を打ち出しました。しかし、核燃料サイクル政策は継続する矛盾を残し、新エネルギー戦略の閣議決定も見送りました。核廃棄物の中間貯蔵を受け入れている青森県六ケ所村や、原子力エネルギー政策で日本の協力を必要とする米政府に配慮した結果と言われます。

ビジネスとは、複雑な世界を単純化する活動です。「喫煙者に嫌われる」ことで成功する可能性があるのがビジネスの世界です。しかし政治は、複雑な世界の複雑さを、丸ごと受け止める活動です。「喫煙者」も国民のひとつの姿です。同様に、原発がある現状で、原発は必要だと主張する人々がいて、その主張や現実と折り合っていくのが政治です。

ブランドから物語へ
ビジネスが成功すると、「ブランド」という象徴的な価値を創り上げ、好まれ支持されますが、政治が「ブラン
ド」を確立することはまずありません。それは、政治が常に「失望」を伴う活動だからです。選挙の際には、際立った「違い」を主張し、「ブランド」を確立する政治家個人や政党が政権を取った暁に起きることは何か。今日の政治環境では、まず間違いなく支持率の一方的低下という未来が待っています。

ではどうしたらいいのか。ビジネスにおける「ブランド」は、「違い」に共感した人々が参加するストーリーと言えます。スターバックスの顧客は、一杯のコーヒーを飲みながら、スターバックスが提供する「物語」を体験しているのです。それはしかし、あえていえば「煙草を吸わないコーヒー好き」だけのための「小さな物語」です。政治は、あらゆる有権者、国民を包含する「大きな物語」を提供しなければなりません。

国民が痛みを含めた筋書きを受け入れ、一緒に体験する「大きな物語」を創ることは、とてつもなく大変なことです。その第一歩は、軸足を決めること。物語の起点をぶらさないことです。嘉田氏の「卒原発」は、そのような「軸」になりえるでしょうか。TPPも、教育も、外交も、雇用も、社会保障も、「卒原発」という軸の同心円状に展開する。そのような「大きな物語」を創れたとき、「第3極」は、「第1極」に発展していけると思います。

(文責:梅本龍夫)



讀賣新聞

【記事要約】 「第3極、3勢力に」

  • 衆院選で民主、自民の2大政党に続く「第3極」が3分化する方向だ。嘉田由紀子・滋賀県知事を代表とする新党「日本未来の党」に「国民の生活が第一」と「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」が合流する。一方、日本維新の会とみんなの党の合流は、見送りとなった。
  • 日本未来の党は、嘉田氏が代表に就くが、衆院選には立候補しない。代表代行にNPO法人・環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長が就く。新党賛同者に、稲盛和夫・京セラ名誉会長の名が上がる。稲盛氏は、民主党の有力支援者で、小沢氏とも関係が深い。
  • 「みどりの党」の前衆院議員3人も「日本未来の党」に合流する。社民党に離党届を出した阿部知子前衆院議員も参加表明をしており、「日本未来の党」は、総勢61人となる。社民党の福島党首は、「脱原発を共に目指す立場」とし、「未来」との選挙協力に意欲を示す。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/


朝日新聞

【記事要約】 「脱原発新党、生活が合流」

  • 嘉田由紀子・滋賀県知事は、「卒原発」を掲げる新党「日本未来の党」を結成する。「国民の生活が第一」(48人)と「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」(9人)が合流し、みどりの風の4人と社民党離党者1人を加え、総勢61人。嘉田氏は、衆院総選挙に100人規模の候補者擁立を目指すとしている。
  • 嘉田氏は、結党理念の「びわこ宣言」を発表。「経済性だけで原子力政策を推進することは国家としての品格を失い、地球倫理上も許されない」「原発事故の潜在的リスクが最も高いのは、老朽化した多数の原発が集中立地する若狭湾に近い琵琶湖だ」と訴えた。同宣言の賛同者には、稲盛和夫・京セラ名誉会長、音楽家の坂本龍一氏らが名を連ねる。
  • 嘉田氏は、「未来をつくる政治の結集軸」も発表。主要政策は、以下の通り。▽「卒原発」、▽「女性の活用」、▽「安心・安全社会の実現」、▽「消費増税の前に徹底した無駄削除」、▽「脱官僚」、▽「品格ある外交」―。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/


毎日新聞

【記事要約】 「嘉田氏が新党、第3極二分」

  • 嘉田由紀子・滋賀県知事は、全原発の廃炉を目指す「卒原発」を政策の柱に掲げる新党「日本未来の党」の結成を正式表明した。「国民の生活が第一」「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」などが合流し、国政政党として発足する。
  • 嘉田氏は、「今のままでは選ぶ政党がない、本当の第3極をつくってほしいという声に応え、新しい党を作る」と表明した上で、「着実に原発から卒業できる道を示さなければならない」と「卒原発」を旗印に勢力を結集する考えを示した。日本維新の会とは一線を画す方針であり、第3極は二分される。
  • 基本政策として、以下の5つを掲げる。①「卒原発」、②全員参加型社会の「活(かつ)女性・子ども」、③安心安全を実感できる「守(まもる)暮らし」、④脱増税、⑤脱官僚、⑥品格のある「誇(ほこる)外交」―。

(毎日jp http://mainichi.jp/

日経新聞

【記事要約】「TPP推進、政府が判断」

  • 民主党は27日、衆院選のマニフェスト(政権公約)を発表した。「原発ゼロ」「冷静かつ現実的な外交防衛」を掲げ、自民党や日本維新の会などの第3極を強く意識した内容となっている。
  • 民主党の主な政策は、以下の通り。▽金融政策=デフレ脱却へ政府・日銀が一体で最大限努力、▽TPP=日中韓FTAなどと同時並行的に進め、政府が判断、▽原発=2030年代に原発稼働ゼロに。新増設は行わず、▽政治改革=次期通常国会で衆院定数を75、参院を45程度削減、▽外交・安保=専守防衛の原則で防衛力を整備。米軍再編の日米合意を着実に実施―。
  • 民主党は、マニフェストによって自民党との違いを鮮明にし、選挙の争点にする戦術だ。より現実的な立場を強調。実現性の低い政策は盛り込まなかった。その結果、目玉が少なく、抽象的な表現が目立つようになった。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/


東京新聞

【記事要約】 「卒原発『未来の党』」

  • 嘉田由紀子・滋賀県知事は、脱原発を政策の柱に掲げる新党「日本未来の党」の結成を表明した。「国民の生活が第一」と「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」が合流し、みどりの風からは前衆院議員3名も参加する。
  • 「日本未来の党」が掲げる「未来をつくる政治の結集軸」は、以下の通り。▽「卒原発」=原発稼働ゼロから全原発廃炉の道筋をつくる、▽「活女性・子ども」=誰もが居場所のある社会を実現、▽「守暮らし」=生活の不安を取り除く、▽「脱増税」=消費税増税の前に徹底した無駄の削減、▽「脱官僚」=国民・地域の立場に立った行政・司法に改める、▽「誇外交」=食の安全、医療制度を守り、品格ある外交を展開―。
  • 嘉田氏は、党の理念を記した「びわこ宣言」も発表した。同宣言への賛同者に、稲盛和夫氏(京セラ名誉会長)、坂本龍一氏(音楽家)、菅原文太氏(俳優)、鳥越俊太郎氏(ジャーナリスト)、茂木健一郎氏(脳科学者)が名を連ねる。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)



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