2012.11.25 sun

新聞1面トップ 2012年11月25日【解説】「体育会」と「同好会」

新聞1面トップ 2012年11月25日【解説】「体育会」と「同好会」


【リグミの解説】

体育会と同好会
大学のスポーツクラブには、体育会系と同好会系があります。体育会の目的は、競技に参加し勝利することです。そのために強
い選手を集め、厳しい練習に耐え、研鑚を積みます。一方、同好会は仲の良い学生たちが集い、スポーツを社交の場として楽しみます。衆院選挙に向けて、離合集散し、勢力拡大と政権公約づくりを急ぐ各政党は、体育会系でしょうか。それとも同好会系なのでしょうか。

本日の新聞1面トップは、読売新聞と毎日新聞が「政権公約づくり」に関連する記事です。読売は、日本維新の会の公約原案を紹介する記事です。橋下氏がこだわった「消費税の地方税化」は、「非現実的」との批判を踏まえ、「地方共有税」というアイデアに変更しています。「維新八策」では、明確に「TPP参加表明」と「脱原発」を打ち出していましたが、今回の「骨太公約」では、曖昧模糊としたものに変質しています。

ラグビーなのか野球なのか
橋下さんは、高校時代ラグビー選手として全国大会に出場する活躍をしました。大学でも橋下さんと一緒に体育会ラグビー部で
頑張ろうと張り切っていた仲間たちは、「野球部の石原さんと一緒になって、新しいスポーツを始める」と突然言いだした橋下さんに戸惑っています。今回の日本維新の会と太陽の党の合併は、そんな様子に見えます。ラグビーボールでは、野球はできません。バットやグローブを持ったまま、スクラムを組む人はいません。

ラグビーと野球は同じ球技だ、スポーツであることに変わりはない、という理屈は無理があります。異種格闘技のような世界でも、たとえば柔道とレスリングでは、ルールがあまりに違いすぎるので、統一ルールを厳密に作って初めて競技が成立します。政治は、勝てば官軍、何をしてもとにかく支持率を上げて、選挙戦で勝利すればいい、という考え方はあまりに乱暴に思えます。何よりも、橋下さんのラグビーでの活躍を期待したいた「ラグビーファン」(元々の維新の会支持者)は、戸惑い、失望しているのではないでしょうか。

名は体を表す
毎日新聞の記事は、民主、自民の争点対立と、「第3極」の動きを伝えています。自民党が「安倍カラー」を鮮明にし、「右傾化
」を打ち出したことで、民主党は「中道」という「違い」を打ち出せる状況になりました。2大政党に関しては、事の良し悪しは別として、体育会系のスポーツクラブ(=本流の政党政治)の伝統的なカラーである「保守・右・タカ派」と「リベラル・左・ハト派」というスポーツの「型」は示せつつあるようです。

一方、「第3極」と呼ばれる中小政党のスタンスは、どうでしょうか。「名は体を表す」といいます。政党が、体育会系から同好会系にシフトした走りは、「みんなの党」ではないでしょうか。「みんな」とは誰を指しているのか。それは、同好の士のことでしょう。「テニスが好きな人、集まれ!」。政策通で実務能力に長けた議員が集まったと言われますが、この党名が示すように、何をしたいのかよくわかりません。かつて、「キャスティングボードを握る」ことを目指したみんなの党は、日本維新の会に合流し、いよいよ不明瞭になるのでしょうか。それとも踏ん張って、体育会系の矜持を示すのでしょうか。

「みんなの党」が先鞭をつけた「同好会系政党名」のトレンドは、「国民の生活が第一」で一気にブレークしました。民主党の2009年衆院選のスローガンをそのまま政党名にした小沢さんは、政治にラグビーも野球もない、と見切ってのことなのかもしれません。そして最後発で登場したのが、「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」です。「減税日本」の河村さんが「どえりゃー長い党名になってしまいました・・・」と照れ笑いをしていました。夏はテニス、冬にはスノボー、その間にダンスパーティーもやろう、という典型的に社交同好会。やりたいことは良くわかりますが。

「衆愚」を前提にしない科学
こうした衆院選の政党の動きと、一見関係ない記事が、朝日新聞の1面トップとなった「福島県におけるWHOの原発事故の影響調
査」です。内容は、記事要約をご覧いただくとして、ここでは国連機関であるWHOと、国内の科学者のスタンスの違いを指摘したいと思います。

WHOは、科学的知見で客観的にわかることを打ち出す前提で、「過大評価」になってもリスクを明示しようとしま
した。これに対して、日本の専門家は、低線量放射線での「影響は考えにくい」と繰り返してきました。「高いリスクを一度目にしたら、あとで低い数値に修正しても、住民は信用しなくなる。無用な不安を抱かせるべきでない」というのが、日本の専門家の基本スタンスです。

でも本当にそうでしょうか。日本人の民度は、その程度なのでしょうか。人々は
、3.11後に覚醒しました。自分たちでしっかり勉強し、子供たちの命を守ろうとする人々がたくさん出てきています。「リスク・アセスメント」の前提と意味も、ちゃんと理解できるはず。何よりも隠蔽を嫌うのが、今の民意なのです。

「衆知」を集める政治へ
何をするのかわからない政権公約。何でもありですよ、と誘う党名。そして、事実(情報やデータ)や考え方の前提となる仮説
を詳らかにしない科学者・専門家。今回の衆院選で、私たちが打破したいものは、「衆愚主義」(大衆は愚かだとい前提で、人気取りに走る政治)です。

戦後営々として積み上げ
てきた民主主義の成熟度を試すキーワードは、「衆知主義」(知恵を出し合い連携して社会を良くしていく態度)です。大衆の知恵と理解力を尊重し、苦い事実も正しく指摘し、有権者の当事者意識を喚起する政党が、ひとつでも多く表れることを願っています。

(文責:梅本龍夫)



讀賣新聞

【記事要約】 「維新公約に『地方共有税』」

  • 日本維新の会の衆院選政権公約の原案「骨太2013~2016 日本を賢く強くする」が明らかになった。①経済・財政、②社会保障、③国家システム、④エネルギー、⑤外交・安全保障―の5本柱で構成される。
  • 維新は、消費税の地方税化を念頭に「地方共有税」の創設を掲げた。「消費税で社会保障を賄うのは不可」とした上で、地方共有税の導入で「(自治体間の)新たな財政調整制度」を作ることも記した。エネルギー政策では、「脱原発依存」とする一方で、「原発のメカニズム、ルールを変える」ことを盛り込み、条件付きで原発の再稼働を容認する構えも見せる。
  • 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加に関しては、「自由貿易圏の拡大」とするにとどめた。8月にまとめた「維新八策」では交渉参加を明記していたが、石原氏に配慮したとみられる。社会保障政策は、財源の考え方や給付抑制など、民主、自民両党との違いは大きく、衆院選で争点となりそうだ。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/


朝日新聞

【記事要約】 「がんリスク、明らかな増加見えず」

  • 世界保健機関(WHO)は、東京電力福島第1原発事故の被曝による住民の健康影響について報告書をまとめた。がんなどの発生について、全体的には統計学的に有意に増える可能性は低い、との結論になった。
  • 原発事故のよる健康影響評価は初めて。100ミリシーベルト以下の低線量被爆の影響については、不確かな要素があるため、原爆やチェルノブイリ原発事故などの知見を参考に、大まかな傾向を分析した。
  • ただし、福島県の一部地域の乳児では、事故後15年間で甲状腺がんや白血病が増える可能性があると予測した。浪江町の1歳女児が16歳までに甲状腺がんになる可能性は、0.004%から、被曝に影響で0.037%と9.1倍になった。同様に、飯館村で5.9倍、福島市で3.7倍に増えるとの予測となった。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/


毎日新聞

【記事要約】 「争点づくり懸命 ~2012衆院選」

  • 衆院選に向け、14政党が争点づくりに懸命になっている。自民党は、安倍氏の最大の売りである強い保守色を打ち出す。だが党内には無党派層の離反を懸念し、「強調しすぎれば懐の深い自民党のイメージを損ないかねない」(幹部)とする声もある。
  • 一方、民主党は「脱原発」や「中道路線」で自民党に対抗する。野田首相や他の幹部も、一斉に自民党の「右傾化」を批判し、無党派やリベラル層の取り込みを図っている。さらに、野田首相と安倍総裁の「党首力」対決に持ち込みたい考えだ。
  • 日本維新の会は、「第3極」結集を急ぐあまり、政策が曖昧になっている。既成政党との「違い」の具体化に苦しんでいる。みんなの党の渡辺代表は、維新の基本政策に「改革」という言葉が出てこないことを指摘し、「橋下さんは戦う改革勢力の原点に立ち戻ってもらいたい」と語る。

(毎日jp http://mainichi.jp/

日経新聞

【記事要約】 「素材安、アジアで拡大」

  • 鉄鋼、紙、石油製品など、主要素材の値下がりがアジアで広がっている。中国の景気減速は緩和してきたという見方もあるが、設備の過剰感は依然強く、日本企業が実施している減産が長引く可能性がある。
  • 自動車部品の鋼板などに加工する熱延コイルの東アジア地区の価格は、1トン550~560ドルと約3年ぶりの低水準となる(前年同期比11%安)。印刷用紙は、雑誌の表紙に使う上質コート紙の香港市場価格が1トン750ドル前後と、9年ぶりの安値となっている。石化製品では、家電用の合成樹脂の原料(アクリロニトリル)のアジア地区の価格が1トン1750ドル程度と、1年半前の過去最高値から4割下落した。
  • 2008年の経済危機後、中国は4兆元(約52兆円)の景気テコ入れ策を決めた。中国を中心に生産能力の増強が続くが、欧州向け輸出などが停滞し、供給過剰状態となっている。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/


東京新聞

【記事要約】 「原発オフサイトセンター、電力系列社がすべて受注」

  • 独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)が、オフサイトセンター(OFC)の運営支援業務をすべて、各原発を保有する電力会社のグループ会社に発注していた。
  • OFCは、原発事故時の対策拠点であり、全国に16ヵ所ある。事故の収拾や住民の避難指示を検討する業務を、事故当事者となる電力会社に任せることになる。非常時に、電力会社側に立った事故対応が取られる恐れもある。
  • OFCは、一般競争入札にかけられたが、実際は一社応札だった。入札価格もJNESの予定価格より高かった。消費者が支払う電気料金から国に納められた税金が、最終的に電力会社の身内に還元されている実態といえる。JNESからは、こうした状況を改善する考えは示されていない。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)



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