2012.10.11 thu

新聞1面トップ 2012年10月11日【解説】人間と動物の境界線

新聞1面トップ 2012年10月11日【解説】人間と動物の境界線


【リグミの解説】

iPS細胞の臨床応用
本日の新聞1面トップで、読売新聞と東京新聞が共に、iPS細胞の応用例が持つ倫理的な課題を浮き彫りにする記事を掲載してい
ます。読売新聞は、iPS細胞を心筋に移植する臨床応用例が、既に6例も成されていたというもの。米ハーバード大で日本人研究者らによるものです。

ハーバードの事例は、iPS細胞の開発競争が加速し、臨床への応用では動物実験をして危険性を十分に見極めてからにする、という倫理規定が疎かにされる可能性を示唆しています。iPS細胞を応用した再生医療医療の研究開発と臨床の在り方を、国際的に議論すべきタイミングに来ていることをうかがわせる記事です。

人間と動物の境界線
一方の東京新聞の事例は、より根源的なテーマに関わります。同紙は、iPS細胞から人間の臓器を作るのは現状では困難であり、
動物の体内で作るのが早道であることから、実験が進んでいる様子を報じています。ブタの体内で人間の膵臓を作る例などが紹介されています。

人間と動物の境界が曖昧になると、どういうことが起きるのでしょうか。東京新聞は、「人間並みの記憶力を持つマウス」や、「人間の皮膚を持つサル」の例を想像しています。SF映画の傑作『サルの惑星』では、人間並みの知能を持ったサルが地球を支配するという設定でしたが、人間と動物の関係が一変することも現実に起き得る時代に入るのかもしれません。

新しい生命観
人間は、果たして特別な存在なのでしょうか。宗教が説いてきた「創世神話」を字義どおりに信じてきた人々にとって、ダーウ
ィンの進化論は、拠って立つ世界観を根本的にひっくり返すものでした。人間は、神が創造したのではなく、サルの仲間から進化したという考え方は、キリスト教文化圏の人々に、取り分け大きな衝撃を与えました。

しかし、進化論は、あらゆる生命は、共通の源から分化したものだと説きます。生命の遺伝子情報は、根本的にはひとつのものであり、微細な差異が多様な生命形態を創り出しています。では、生命共有の祖である「一粒の種子」は、どこからやってきたのでしょうか。現代の「創世神話」は、未だ完成してはいません。

人間と動物の関係は、人間が動物を支配し、食料や実験、あるいは愛玩の道具として好きなように活用しています。しかし、共通の起源をもつ仲間だというのが、生命の本質です。そうした根源から見れば、iPS細胞が開いた「パンドラの箱」は、大きな倫理問題・哲学問題を人類に突きつけたことは、間違いありません。

現代の神話
パンドラの箱が開いたものは何か、新しい世界で見えてくるものは何か。生命は、どのような姿形をしていても、等しく尊く「
かけがえのないもの」だという理念。それが「パンドラの箱」に残った「希望」ではないかと思います。

人間を頂点とするヒエラルキーを根本的に見直さない限り、科学テクノロジーが切り開く未来に、人類は対応できなくなる可能性があります。新しい生命観、人類で共有できる新しい考え方や価値観を創造する時期にさしかかっています。それは科学テクノロジーと宗教や倫理を包摂する「現代の神話」を創造する試みとなるではないでしょうか。

(文責:梅本龍夫)



讀賣新聞

【記事要約】 「iPS心筋を移植」

  • 米ハーバード大の日本人研究者らが、iPS細胞(新型万能細胞)から心筋の細胞を作り、重症の心不全患者に細胞移植する治療をしていた。iPS細胞を利用した世界初の臨床応用例であり、既に6人の患者に実施している。同大の日本人研究者は、森口尚史・客員講師。森口講師は、東京大学の客員研究員も務める。
  • 最初の患者は34歳の米国人男性。肝臓がん治療のため肝臓移植を受け成功したが、虚血性心筋症を発症。チームは移植時に冷凍保存してあった男性の肝臓から、幹細胞に変化する手前の「前駆細胞」を採取し、iPS細胞を作製。これを心筋細胞に変化させ、大量増殖させ、特殊な注射器で患者の心臓に心筋細胞を注入・定着させた。男性は8ヵ月経った現在も、平常の生活を送っている。
  • 日本でも技術的には可能な手術だが、公的指針で動物実験を経た上で研究計画を立てて国に申請することが義務付けられている。森口講師らは、ブタの実験で安全性を確認した上で、緊急性を考慮したハーバード大の倫理委員会から「暫定承認」が出された。京大の山中教授が、6年前に作成に成功したiPS細胞の臨床応用が、予想を超えるペースで進んでいる。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/


朝日新聞

【記事要約】 「格納容器に水2.8メートル」

  • 東京電力は10日、福島第1原発1号機の原子炉格納容器内をカメラで撮影した様子を公開した。炉心溶融事故を起こした1~3号機の原子炉格納容器内部にカメラを入れたのは、2号機に続いて2基目となる。
  • 1号機は東電の解析では、最も損傷が激しく、溶解した燃料の殆どが原子炉圧力容器を突き抜け、格納容器に落ちて底にたまっているとみられる。東電によると、格納容器の底から2.8メートルに水面があった。これまでの推定より80センチほど高かった。溶けた燃料は水につかり、冷やされていると見られる。
  • 1号機の放射線量は、毎時11.1シーベルで、2号機の毎時73シーベルよりは低いが、1時間弱浴びると死ぬほどの高放射線量だ。事故から1年7ヵ月経つが、原子炉の中は容易に人が入れる状態ではなく、溶けた核燃料を取り出して廃炉作業を進める上で、困難な作業が予想される。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/


毎日新聞

【記事要約】 「途上国の防災強化」

  • 国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会の関連行事として、財務省と世銀が共催する「防災と開発に関する仙台会合」が仙台市で行われた。共同声明で、途上国開発に防災の観点を取り入れることの重要性を訴えた。
  • 世銀仙台声明の骨子は、以下の通り。▽「いかなる国や地域も自然災害から完全に逃れることはできない」、▽「中央政府と開発援助機関に対し、防災を軸に開発援助の努力を加速するよう求める」、▽「災害に強い社会を構築するための防災投資は、人命を救い、復興費用を最小化する」、▽「日本に蓄積されたノウハウや専門性を途上国に活用し、技術的、財政的支援を強化」。
  • 仙台会合は、日本の復興の現状を世界へ発信し、震災の教訓を国際的に共有するとともに、途上国での防災意識の定着に役立てようと開催された。キム世銀総裁は、「重要なのは文化としての防災を定着させることだ」と述べる。仙台の共同声明は、世銀IMF合同開発委員会の議論にも反映される。

(毎日jp http://mainichi.jp/

日経新聞

【記事要約】 「地銀、海外を収益源に」

  • 金融庁は、地方銀行の海外での代理業務を解禁する。地銀は、取引先が海外進出する際に、進出先の外国銀行の代わって融資や海外送金の窓口になれる。
  • 地銀の新しい海外のビジネスモデルは、以下の通り。①地銀が進出企業に現地の金融情報を提供する、②地銀と進出企業が融資に関する折衝をする、③地銀が外銀の事務処理をする、④外銀が地銀に手数料を払う、⑤外銀が進出企業に融資する―。
  • 国内の産業空洞化が進み、地銀の国内取引は減少している。アジアなど海外に積極的に進出し、国内に偏る収益源の多様化を図る。金融庁は、年内に結論をまとめ、来年の通常国会に提出する銀行法改正案に盛り込み、2014年の施行を目指す。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/


東京新聞

【記事要約】 「再生医療、危うい倫理」

  • どんな細胞にも変化する万能型のiPS細胞をもとに、動物の体内で人間の臓器を作り出す研究が進んでいる。山中教授のノーベル賞受賞でiPS細胞の応用に期待が集まる中、人間と動物の境界が曖昧になるという倫理問題が浮上している。
  • 一例として、ブタの体内で人間の膵臓を作るやり方は、以下の通り。①人間のiPS細胞を作製、②膵臓になる前の「前駆細胞」に培養する、③ブタの胎児に移植手術をする、④ブタの膵臓ができないように操作する、⑤人間の膵臓を持ったブタができる―。
  • 試験管の中で丸ごと臓器を作るのは難しく、臓器の形成には動物を活用するのが早道だ。しかし技術が進めば、人間の脳細胞の動物への移植などで、動物と人間の境界が曖昧になり、やっていいことといけないことの線引きの問題が生じる。山中教授も、どこまで進めて良いか、国民的議論が必要だと訴える。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)



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