2012.09.29 sat

新聞1面トップ 2012年9月29日【解説】「傍(はた)を楽」にする社会

新聞1面トップ 2012年9月29日【解説】「傍(はた)を楽」にする社会


【リグミの解説】

労働と生活
「働かざるもの食うべからず」。よく聞くこの言葉、どう解釈しますか?


本日の新聞1面トップ記事は、朝日と毎日が厚労省が発表した「生活保護制度の見直し案」についてです。生活保護の受給者が211万人を超え、過去最高を更新しています。年間予算は3.7兆円です。不正受給の問題や、扶養義務者が面倒をみない事例が社会問題化したことが背景にあります。逆に、生活保護を受けたくても受付窓口で事実上断られたり、保護を求めることを遠慮して命を危険に晒す事例も報道されています。

生活保護制度は、「労働」と「生活」の間に存在する安全網(セーフティーネット)といえます。基本的に、人は労働の対価を得て生活をします。これが世の中の大半の人々の姿です。「普通生活者」のセグメントであり、「働くことで食える」状態です。一部の何らかの恵まれた理由で、働かなくても生活ができる人々もいます。「有閑生活者」のセグメントであり、「働かなくても食える」状態です。

生活保護受給の問題
問題は、これ以外のケースです。大雑把に言って、①「働きたいのに働けない人」、②「働きたくなく働けない人」、③「働け
るのに働かない人」の3つのケースが考えられます。

①の中には、生活の行き詰った高齢者や、就職が困難な母子家庭や、厳しいな介護生活を続ける家庭などが考えられます。②は、心身の状態に何らか不全や病状・障害があり、働く能力と意欲を失っているケースです。

日本国憲法は、第25条に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と謳っています。こうした人々に、「働かざるもの食うべからず」と言うのは、「自助」の価値観の押し付けであり、生活者の切り捨てになります。


同時に、①の「働きたいのに働けない人」の中には、就労機会が得られず、やむを得ず生活保護に頼っている「現役世代」人たちがいます。これがリーマン・ショック後に特に増大したようで、毎日新聞によると、保護受給者のうち約30万人がこの層となります。この層の就労機会と就労意欲を引き出すことで、増え続ける生活保護負担を軽減したい、というのが厚労省の意図だと思います。

働く意欲とセーフティーネット

生活保護制度で一番問題となるのが、③の「働けるのに働かない人」の扱いです。社会問題として注目を集めたのもこのセグメントでしょう。明らかに意図的な不正受給者は論外であり、ここは制度の運用で正すべき部分もあります。しかし運用では不十分なために、制度を改革するというのが今回の方針ですが、それは結果として①や②のケースにまで悪影響を与える可能性があります。

セーフティーネットは、ぎりぎりの生活をしている人々のためだけにあるのではありません。セーフティーネットは、実は国民の大半となる「普通生活者」にとってこそ、必要なのです。なぜかというと、社会の安定と発展が、そこから生まれるからです

社会の安定は、「安全」(物理的な実態)と「安心」(心理的な状態)によって生まれます。そして社会の発展は、「機会」(物理的な可能性)と「希望」(心理的な可能性)によって生まれます。何らかの理由によって、困窮した人々が、救済されないとしたら、世の中はどうなるでしょうか。あるいは、新しいことに挑戦し、武運つたなく失敗した人が、2度と浮上できないとしたら、人々はどういう行動を取るでしょうか。

傍を楽にする
本当のセーフティーネットとは、国民が広く共有できる大きな合意事項として、意識されるべきものです。それは、「どんな社
会を創りたいか」という私たち国民のビジョンや構想にかかっています。

「働く」の意味は、「傍(はた)を楽にする」だと聞いたことがあります。「傍を楽にする」とは、「利他の心」であり、労働の尊い価値です。働ける幸福を享受する者(「自利」)が、働けない者を支える(「利他」)ことで、社会は深みと広がりを得ます。


生活保護制度の問題は、多様な生き方を受け止められる社会、生きる希望を持てる社会、助け合って共に成長していける社会とはどのようなものか、私たちに問いかけているのだと思います。

(文責:梅本龍夫)



讀賣新聞

【記事要約】 「民・自、解散にらみ新体制」

  • 民主党と自民党の新体制が正式に決まった。民主党の人事は以下の通り。幹事長=輿石氏(再任)、幹事長代行=安住氏(財務相)、政調会長=細野氏(環境相)、国会対策委員長=山井氏(国会対策副委員長)。
  • 自民党の人事は以下の通り。幹事長=石破氏、政調会長=甘利氏、総務会長=細田氏、副総裁=高村氏、国会対策委員長=花田氏。
  • 10月中に召集される見通しの次期臨時国会での懸案事項の扱いや、衆院解散・総選挙の時期をめぐる両党の駆け引きが、活発化すると見られる。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/


朝日新聞

【記事要約】 「扶養困難、親族に説明義務」

  • 厚生労働省は28日、生活保護を見直すたたき台をまとめた。高齢化や不況で受給者は増え続け、6月時点で約211万5千人に達している。見直し案は、現役世代の受給者の「就労・自立」を強く求める内容になっている。また、扶養義務者に説明義務をつけたり、受給者の支出状況を調査する権限を設けるなど、引き締め策が目立つ。
  • 見直し案の内容は以下の通り。①「低収入・短時間でもまず就労してもらう」方針、②扶養困難な理由の説明義務づけ、③住宅扶助の家主への直接納付を推進、④医療扶助のセカンドオピニオン活用、⑤受給者の保護費支出状況の調査権限、⑥不正受給の罰則強化。
  • 厚労省の社会保障審議会の特別部会で年内に議論を終え、自立を支援する方策とセットで、来年の法制化を目指す。引き締め策が目立つ内容となっており、本当に支援が必要な人まで、生活保護制度を利用しにくくなる懸念もある。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/


毎日新聞

【記事要約】 「就労努力に加算金

  • 厚生労働省は28日、生活保護制度の見直しを柱とする「生活支援戦略」の素案をまとめた。生活保護受給者は6月時点で過去最高の211万人に達しており、2012年度の保護費予算は3.7兆円になる。リーマン・ショック以降に増えた「働ける層」の受給者は、約30万人いると想定される。
  • 素案には「働ける層」の自立促進策が並び、就労により保護費を抑制する意図がある。概要は以下の通り。①積極的に就職活動をしている人には保護費を加算、②収入があれば保護費が減額される現行制度を緩和、③就労意欲が低く保護打ち切りとなった人は3回目の申請から審査を厳格化。
  • 保護費の半分を占める医療扶助については「不必要な受診」を減らすため、セカンドオピニオンを活用する。また、扶養を断る親族に、説明責任を課す規定もつくる。厚労省は、年内に最終案をまとめる。

(毎日jp http://mainichi.jp/

日経新聞

【記事要約】 「対中ビジネス減速」

  • 中国企業に対するM&Aは、2012年7~9月で5件(金額ベース56億円)、同4~6月の75%減(金額ベース7割減)となった。リーマン・ショック後の2009年4~6月以来の低水準となった。
  • 日本企業による海外M&Aは過去最高のペースで続いている。その中で対中投資の減速が鮮明となった背景には、中国の景気減速がある。2012年の経済成長は13年ぶりに8%を割る見込みだ。人件費の上昇により、生産拠点としての魅力が後退している要因もある。
  • 尖閣諸島を巡る反日の動きで、投資案件の遅れや破談などの影響が出ている。出店計画の見直しや、工場の生産調整・増産投資の抑制などの動きもある。対中投資や生産活動の停滞は、中国景気を一層冷やし、国内経済にも悪影響を与えかねない。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/


東京新聞

【記事要約】 「『新増設せず』骨抜き」

  • 電源開発(Jパワー)は28日、大間原発の建設工事を年内にも再開する方針を固めた。政府は新エネルギー戦略で、原発の新増設は認めない方針を示したが、着工済みの原発は例外扱いとする。設置許可が出ていない計画中の原発の扱いは曖昧なままだ。
  • 枝野経産相は、原発の新増設を回避する方法について、行政指導だけでなく、法的拘束力の仕組みづくりをしていきたい、と21日記者会見で答えた。しかし1週間後に経産省に問い合わせると、枝野氏の発言は原発新増設を中止させる意図ではない、と回答。原子力規制委員会の田中委員長は、原発計画のより分けは政府の仕事だと明言したが、取材した経産省資源エネルギー庁は「そのことは知らなかった」と答弁する。
  • Jパワーと、四国電力、九州電力、日本原子力発電の4社は、計7基の原発計画を積極的に推進する考えを示している。政府は、原発の新増設の判断も原子力規制委員会に丸投げしようとしてが、規制委は「政府の仕事」と戻した。政府は、「新増設はしない」と約束した以上、こうした計画を中止にする方法を打ち出す責任がある。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)



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