2013.10.09 wed

新聞1面トップ 2013年10月9日【解説】「物分かりの良さ」を捨てる

新聞1面トップ 2013年10月9日【解説】「物分かりの良さ」を捨てる


【リグミの解説】

みずほ銀、TPP、成人力調査に共通のもの
本日の新聞1面は、3つの記事に注目しました。最初が、「みずほ銀行、暴力団融資を歴代トップに報告」。読売、朝日、毎日、日経がトップで報道しています(東京新聞は3番記事)。みずほ銀行これまで、問題の融資に関する情報は、担当役員への報告に留まっていたと説明していましたが、取締役会とコンプライアンス委員会の計8回の会議で報告されていたと発表しました。
 
2つ目が「TPP大筋合意できず」で、読売、毎日、日経、東京の2番記事です。オバマ米大統領がTPP首脳会合を欠席したこともあり、問題解決が先送りされ、目指していた年内妥結が難しくなっています。それでも安倍首相は、「年内妥結に向けて大きな流れができた」と語りました。
 
そして3番目の記事が「『成人力』調査、日本1位」です。OECD(経済協力開発機構)が加盟22ヵ国・地域と非加盟2ヵ国で16~65歳の成人について、社会生活で求められる能力の習熟度を測定しました。日本は「読解力」と「数的思考力」で1位、「ITを活用した問題解決能力」で10位でした。ITテストも、PCで調査を受けた人に限れば1位でした。
 
「物分かりの良さ」という基礎素養
TPPについて、東京新聞の「筆洗」に次の一文があります。「政府と自民党は交渉の年内合意に熱心だ。年内挙式と言われれば、親としては最初の約束が妙な具合になっても反対しにくい。日本の国民の物分かりの良さを自民党に付け込まれている気がする」。ここでいう「物分かりの良さ」こそ、みずほ銀の問題にも通じるものです。その基礎は、「成人力調査」の結果に見られる「基礎素養」です。
 
TPPは、昨日解説した「原発」と並んで、「国論を二分する」テーマでした。しかし最近はすっかり交渉妥結が既定の路線となり、「聖域」についてもあいまいになり、「国益を守る」という錦の御旗も掲げられなくなりました。守れなければ交渉離脱も辞さないという言葉も聞かれなくなりました。それでも国民は、これも流れだからと「物分かり良く」見守っています。
 
みずほ銀行について言えば、問題を深刻視せず放置し続けたこと、臭いものに蓋をしてきたことは明らかです。日本を代表するメガバンクは、最も優秀な人材を集めた組織のひとつです。「成人力調査」を日本企業の中で行えば、間違いなくトップクラスの成績を残せるでしょう。しかし、そうした「基礎素養」が、みずほの企業力を蝕んでいます。
 
「HOW」が優先される社会
文部科学省は、日本が「成人力調査」でトップになった理由として、「義務教育と企業の社員教育の成果」と語っています。それはそうだと思います。義務教育も、社内教育も、「与えられた課題を効率的に解く」ことに主眼をおいています。「HOW」(いかにやるか)の能力開発です。しかし私たちが今発揮すべき能力は、「WHY」(なぜこうなのか)を問うことです。そして、「WHAT」(何をすべきか)を見つけられる能力です。
 
みずほ銀行の行員たちは、暴力団融資が良くないことは当然にわかっているでしょう。コンプライアンス(法令順守)もどこの組織より正しく理解していると思います。それにもかかわらず、問題は放置されました。銀行員としての職業倫理観が本当にあれば、しないことを平気でする理由。それは、組織人としての「物分かりの良さ」です。
 
経営陣は臭いものに蓋をしたい。しかしコンプライアンスも問われる。であれば、取締役会と委員会には資料を提出しよう。ただし、参考資料に留め、口頭での報告や問題提起はしない。事務局は仕事をこれで果たしたことになります。一方の経営陣は、「報告を受けていない」と言い逃れができます。どちらも暴力団融資の「WHY」を口にせず、「WHAT」を語りません。
 
リーダーよりもフォロワーが大事
日本の政治や企業で、しばしば問題になるのが「リーダーがいない」「リーダーシップが発揮されていない」ことです。しかし、この指摘は問題の本質を見誤らせます。リーダーはフォロワーとセットの存在です。導く人(リーダー)に従う人(フォロワー)がいるから導けるのです。みずほ銀行の問題も、日本の政治の問題も、経営陣や政府の問題である以上に、行員全体の在り方や、国民の意識が問われているのです。
 
「物分かりの良さ」は、知能テストでは高評価されるかもしれませんが、現実世界で本当に必要なものは、複雑に絡み合った問題や不正を安易にのみこまず、「WHY」(なぜこうなっているのか)を問い、「WHAT」(何がほんとうにすべき課題なのか)を探ることです。「HOW」(課題をどう効率的に効果的に解くか)の能力が役立つのは、このあとです。優れたリーダーの登場を待つのではなく、健全なフォロワーになること。その第一歩は、「物分かりの良さ」を捨てることです。
 

(文責:梅本龍夫)



  1. みずほ銀 元頭取も把握 現会長・頭取にも資料 暴力団融資 金融庁 虚偽報告で処分検討
    http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20131008-OYT1T01053.htm
  2. TPP大筋合意できず 首脳声明 年内妥結は確認
    http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20131008-OYT1T01081.htm?from=os2
  3. 高3女子刺され死亡 殺人未遂容疑 元交際相手逮捕 ストーカーか 東京・三鷹
    http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20131008-OYT1T00888.htm?from=navr

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 



  1. 組員融資、歴代トップに報告 みずほ銀 検査の1年以上前 「役員まで」の説明覆す
    http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201310080676.html
  2. 高3女子、刺され死亡 当日朝、つきまとい相談 容疑の男逮捕
    http://www.asahi.com/national/update/1008/TKY201310080280.html
  3. ヒッグス粒子 2氏にノーベル賞 物理学賞、質量の謎解明
    http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201310080689.html

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 



  1. みずほ組員融資 当時の頭取も放置 現頭取「自分も知り得た」トップの進退に発展も
    http://mainichi.jp/select/news/20131009ddm001040030000c.html
  2. TPP「年内妥結」首相声明 対立残り難航必至
    http://mainichi.jp/select/news/20131009ddm001020034000c.html
  3. 「大人の学力」日本トップ OECD調査 読解と数的思考
    http://mainichi.jp/select/news/20131009k0000m040025000c.html

(毎日jp http://mainichi.jp/
 



  1. みずほ持ち株会社に報告 暴力団融資 取締役会に資料 佐藤頭取「知りえた立場」
    http://www.nikkei.com/article/DGKDASGC0801J_Y3A001C1MM8000/
  2. TPP、大筋合意至らず 首脳声明 知財・環境など難航
    http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS0804C_Y3A001C1MM8000/
  3. 「ヒッグス粒子」ノーベル賞 物理学賞に2氏 質量の起源解明
    http://www.nikkei.com/article/DGXNASGG01012_Y3A001C1MM8000/

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 



  1. 女子高生刺され死亡 ストーカー相談 当日 殺人未遂容疑21歳男逮捕 三鷹
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013100902000131.html
  2. TPP「年内妥協」声明 首脳会合 聖域捨て「時期」優先 首相変節 米追随さらに
  3. みずほ 元頭取 把握 現頭取も「知る立場に」 暴力団融資
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2013100902000130.html

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/
 


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