2013.03.22 fri

新聞1面トップ 2013年3月22日【解説】「期待感」を上回るもの

新聞1面トップ 2013年3月22日【解説】「期待感」を上回るもの


【リグミの解説】

「期待感」を醸成する記事
本日の新聞1面の注目度を点数化してみます。試みに、トップ記事3点、2番記事2点、3番記事1点を配分します。


1.黒田・新日銀総裁の就任会見: 読売トップ、朝日3番、毎日トップ、日経トップ=10点
今までの日銀との「違い」を強調する記者会見となっている印象です。何を言っているかよくわからないことがあった今までの日銀総裁に対して、歯切れの良い言葉が並びます。黒田氏が言語明瞭であることはよくわかります。

白川・前総裁については、リーマン・ショックや欧州通貨危機から日本を隔離した手柄を評価する声が海外では多いとい
います。ただ、国内では、市場との対話に不足感があったとの声もあります。黒田総裁は、市場に対する発信力は十分ありそうですが、受信力とリスク管理能力は未知数です

2.公示価格の発表: 朝日トップ、毎日2番、日経2番=7点
2013年の公示価格は、全国平均で「住宅地▲1.6%、商業地▲2.1%、全用途▲1.8%」でした。5年連続の下落ですが、下落率が3年連続で縮小していること、東京、大阪、名古屋3大
都市圏に限ればマイナス1%未満となったことで、「底打ち」から「反転上昇」を示唆する記事です。地価上昇地点は、前年の413から1349に増えています。

昨夜のテレビのニュ
ース番組では、川崎市の武蔵小杉のマンション需要が高まっている事例を紹介。消費増税前に購入しようとすることに加え、不動産価格の上昇傾向が出てきていることが理由としています。会社の周りの人たちがマンション購入を始め、煽られてきた夫婦の姿を紹介していました。


2つの記事(とテレビのニュースの事例)に共通するキーワードは、「期待感」です。黒田日銀総裁の発言は、「2%の物価上昇が2年で実現する」という「期待感」を抱かせます。最新の公示価格の記事などは、来年の公示価格はプラスに転じ、マンションなどの価格が上昇するのでは、という「期待感」をもたらします。黒田氏の発言や、国交省の発表データそのものがもっている発信力もありますが、マスコミの伝え方、解釈と表現も多分に影響しています。

「期待感」のコントロール
筆者の個人的な職業体験でも、「期待感」は重要なテーマでした。経営コンサルタントとして、クライアントの経営改革などを進める際には、依頼企業の「期待感」がポイン
トでした。「期待感」を下回るアウトプットは失格、「期待感」通りは凡庸、「期待感」を上回ることで初めて次につながるとされました。そしてクライアントの「期待感」は、受け身で待つものではなく、コンサルタントが積極的にコントロールすべき、と考えられていました。真にプロであるなら、クライアントにとって苦い薬となるものを受け入れてもらうことこそ仕事だ、という意味です。

「期待感」は、常に「次」を求めます。上場会社のIR(株式市場の広報)を担当したときは、アナリストとの業績予想についてのやりとりが印象に残っています。半期予想がわかると、通期予想を求め、通期がわかると来期となります。眼前の「期待感」は株価に織り込まれ、市場は次の「期待感」を貪欲に求め続けました。当然、期待に応えられケースと期待に反するケースがあります。煽ったり、切り捨てたりすることは簡単です。適正なレベルに冷静に着地する仕事こそ、プロのアナリストとIR担当者の協働作業であったと思います。

プロの職業倫理観
本日の朝日の天声人語で、1925年3月22日がラジオ放送開始の記念日であることに触れ、「聴取者は日中戦争前に大新聞の読者数を超え、この新メディアは国策の宣伝を担うこ
とになる。破局に至る熱狂は、朝日などの大手紙とラジオの共作といえる」と述べています。ラジオ放送は、「演説を拍手や歓声と共に伝えるヒトラーに倣い、『耳から心に響き、戦意高揚につながった』」とする「NHKスペシャル」の内容に、「苦い思いで頷いた」とあります。

「期待感」は、何もないところから生まれるわけではありません。現状を少しでも良くしたいという、人間の自然な心情が根幹にあります。問題は、目先の良いことと、長い目で見て良いことが一致するとは限らないことです。また、何が本当に良いことなのかは、深い洞察と検証が必要なことですが、「期待感」はとかく安直に形成されるものです。なぜなら、現状に対する不足感や不満を解消してくれそうなことは、解放感やカタルシスをもたらすからです。

真の解決策、問題の本質をえぐる指摘というものは、安直な「期待感」を寄せ付けないところがあります。「良薬口に苦し」を理解し、納得して受け入れ、自ら治療に励み、体質改善を目指す。名医は、一方的な治療行為や言葉のマジックで治すのではなく、患者本人の内側にあるものに「気づき」を与えることで、健全な心身状態に戻していくものです。経済のプロも、政治のプロも、そして報道のプロも、本質は同じだと思います。プロフェッショナルにとって、技量以上に職業倫理観が大事な理由です。

(文責:梅本龍夫)







【記事要約】 ① 【政府広報】 「無期限緩和、前通し」

  • 黒田東彦・日銀総裁は21日、就任後初の記者会見を行った。「デフレから脱却し、(インフレ)目標を早期に実現することが、日銀が果たすべき使命だ」と表明した。達成時期は「2年程度を念頭に一日も早く実現する」と述べた。


② 【連続企画】 「参入拒み、老いる農家」

  • 農家の担い手の平均年齢は66歳。多くは跡継ぎがいない。一般企業の参入には「農地法」のカベがある。役員の過半数が原則として農業に年150日以上従事することと、議決権株式の4分の3以上を農業関係者が持つことが義務付けられている。農業は、家業から脱皮しない限り、若い人材は集まらないだろう。


③ 【政府広報】 「大学受験にTOEFL」

  • 自民党の教育再生実行本部は、教育改革の第1次提案をまとめた。「教育再生の3本の矢」として、①英語教育の抜本的改革、②理数教育の刷新、③国家戦略としての情報通信技術(ICT)教育―を目標とする。1兆円規模の集中投資を行う必要があるとする。


(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 





① 【政府広報】 「大都市地価、上向く」

  • 国土交通省は21日、2013年1月1日時点の「公示価格」を公表した。東京(首都圏)、大阪、名古屋の3大都市圏では、リーマン・ショックによる地価の落ち込みがほぼ下げ止まった。さらに金融緩和による余剰資金が不動産に流入し、大都市を中心に地価が上昇し始めている。


② 【独自取材】 「東電、除染費105億円未払い」

  • 放射性物質汚染対処特別措置法(特措法)に基づき、環境省が東京電力に請求した除染費用149億円のうち、105億5千万円が未払いになっている。特措法では負担対象があいまいなため、東電側は支払う意思を示していない。このまま東電が支払い拒否を続ければ、最終的に税金での穴埋めとなりかねない。


③ 【政府広報】 「『量質とも大胆に緩和』」

  • 黒田東彦・日銀総裁は21日、就任会見を行った。物価上昇率2%の目標を「2年をめどに達成する」と表明。「量的、質的にさらに大胆な緩和を進める」と述べ、追加金融緩和策の検討を本格化させる意向を示した。


(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 





① 【政府広報】 「『物価上昇2%を確信』」

  • 黒田東彦・日銀総裁は21日、就任会見を行った。物価上昇率2%の目標について、「達成できると確信している。達成できるまであらゆる手段を講じていく」と述べ、「質的にも量的にも大胆な金融緩和を行う」と表明した。長期国債の購入額や買い入れ対象の拡大などの追加緩和策を議論していく。


② 【政府広報】 「公示価格、都市で底打ち」

  • 国土交通省は21日、2013年1月1日時点の「公示価格」を公表した。全国平均で商業地、住宅地ともに5年連続で下落した。下落率は3年連続で縮小し、特に東京、大阪、名古屋の3大都市圏は底打ちとなった。


③ 【独自取材】 「パレスチナ初訪問」

  • オバマ米大統領は21日、就任後初めてパレスチナ自治区を訪問し、自治政府のアッバス議長と会談。記者会見で「平和の探求を断念してはならない」と繰り返し、「パレスチナの子供が自分の国を持たず、外国軍が両親の行動を支配する中で育つのは公正ではない」と述べ、パレスチナとイスラエルの2国併存を求めた。


(毎日jp http://mainichi.jp/
 





① 【政府広報】 「早期に政策転換」

  • 黒田東彦・日銀総裁は21日、就任会見を行った。2%の物価上昇目標達成のため「量的、質的両面から大胆な金融緩和を進める」と明言。達成時期は「2年程度を念頭の置く」とし、「達成まで、あらゆる手段を講じる」と述べ、就任後初の金融政策決定会合で追加緩和に踏み切る方向性を打ち出した。


② 【政府広報】 「都市部で上昇相次ぐ」

  • 国土交通省は21日、2013年1月1日時点の「公示価格」を公表した。5年連続の下落となったが、下落率は縮小した。3大都市圏では上昇に転じる地点が相次いでいる。デフレ脱却の期待感により、資金が不動産に流入しており、地価に底入れの兆しがある。


③ 【政府広報】 「情報漏洩に刑事罰」

  • 金融庁が取りまとめた金融商品取引法改正案の詳細が21日、明らかになった。インサイダー取引の再発防止のため、取引のきっかけとなる情報を漏らした人に、実際のインサイダー取引と同じ懲役5年以下の刑事罰や課徴金を科すことを柱とする。


(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 





① 【連続企画】 「逃げる手段ない ~レベル7」

  • 京都府に原発はないが、福井県の関西電力高浜原発の30キロ圏に7市町が入る。避難対象は10倍の13万人に急増した。シミュレーションでは、バス600台を集めれば10時間半で避難が完了する。しかし、バスの確保の難しさと、運転手に「放射線量の高い所に行け」とは言いづらい状況だ。


② 【警察広報】 「『振り込め詐欺』新名称求む」

  • 警視庁は21日、「振り込め詐欺」に代わる新名称の募集を始めた。被害者が現金を犯人に手渡しする形態が増え、名称が実態に合わなくなってきたためだ。「振り込め以外の手口があることや、被害者をパニックに陥らせ、混乱させる手口があることが、高齢者らにも直感的に理解できるような新名称」を募りたいとしている。


③ 【司法広報】 「神奈川の企業法『違法』」

  • 最高裁第1小法廷は21日、神奈川県が独自に導入した「臨時特例企業税」条例は「違法」とした。いすゞ自動車が徴収された約19億円余りの返還を県に求めた訴訟の上告審判決で、全額の返還を県に命じた。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)




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